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多少崩れてもなお強固な「資本主義の壁」
冷戦の勝利は終わりでもあり始まりでもあった

2009年11月12日(Thu) Financial Times

(2009年11月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

「ベルリンの壁」崩壊20年を祝う巨大ドミノ倒し

資本主義の勝利を祝うにしては、微妙な年〔AFPBB News

 「記念すべき年に危機が訪れるとは何とも奇妙な祝福だ」。欧州復興開発銀行(EBRD)のチーフエコノミスト、エリック・バーグロフ氏は皮肉たっぷりにこう論じている*1

 しかし今、20年前に共産主義からの脱却を始めた国々で我々が目にしているのは紛れもない危機だ。ということは、共産主義と同じく、資本主義も失敗したのだろうか? 

 一言で言えば、答えは「ノー」だ。資本主義への移行途上にある国の一部は危機に陥っているが、移行そのものが危機に瀕しているわけではない。同じ理屈は、別のことにも当てはまる。資本主義国は危機にあるが、資本主義そのものが危機に瀕しているわけではない。

資本主義国は危機にあるが、資本主義が危機に瀕しているわけではない

 だが、改革は必須だ。自由主義的民主主義と市場経済の大きな長所は、改革と適応の力にある。民主主義と市場経済は、こうした長所を過去にも示してきた。今回もまた、その力を示さなくてはならない。

 筆者と同様に、第2次世界大戦後間もなく生まれた者にとって、冷戦は生涯において、人生を決定づける知的、政治的葛藤だった。共産主義の崩壊により、理想社会の建設を謳う政治がもたらした壊滅的な争乱の時代に終止符が打たれ、合理的計画経済への幻想にとどめが刺された。民主主義がもたらす自由と、市場が与える繁栄が勝利を収めたのだ。

CFE履行凍結の目的は「建設的な対話の促進」

共産主義が派手に玉砕するのではなく、平和的に消えていったのはミハイル・ゴルバチョフ氏によるところが大きい〔AFPBB News

 しかし、共産主義の最期が派手な玉砕ではなく、むしろ消え入るようなものだったのは、主にミハイル・ゴルバチョフ氏のおかげだった。

 それでも2009年という年は、過去を振り返るには、安閑としていられる年ではない。1年前、資本主義は暴走して崖から転げ落ちた。各国は莫大な努力を払って、資本主義をまた元の道に戻した。

 イングランド銀行のピエルジョルジオ・アレッサンドリ氏とアンドリュー・ホールデン氏が最近まとめた出色の報告書*2によれば、銀行に注入された資金の総額は14兆ドルに達するという。これはもはや国家社会主義である。

 だとすれば、20年前に社会主義から脱した国々にとって、今回の危機は何を意味するのだろうか。また、世界にとって、それは何を意味するのだろうか。

 旧社会主義諸国にとって、それが意味するのは生産の大幅な落ち込みだった。EBRDの予測によると、移行途中にある欧州諸国では、2009年の国内総生産(GDP)は平均で6.2%落ち込む見通しだ。

*1Transition Report 2009
*2Banking on the State(PDF)

「魂を担保にお金貸します」、不況のラトビアに新手の金融業者

2ケタのマイナス成長に見舞われる東欧諸国(写真はラトビアの首都リガの街並み)〔AFPBB News

 マイナス幅は国によって大きく異なる。リトアニアの18.4%を筆頭に、ラトビアは16.0%、ウクライナは14.0%、エストニアでは13.2%(これらは恐慌と言っていい数字だ)に達するが、一方でスロベニアは7.8%、ハンガリーは6.5%、スロバキアは6.0%、チェコは4.3%のマイナスにとどまる。

 ポーランド経済は2009年に1.3%のプラス成長を見込んでいる。全体的に見て「生産高のマイナス幅は、経済危機以前の信用膨張と対外債務と相関している」とEBRDでは分析している。バブル崩壊は大きな痛手をもたらすのである。

 これらの国々の経済危機は現実の問題であり、憂慮すべきものだ。だが、これも過去の経緯の中でとらえる必要がある。第1に、社会主義からの移行途上にある国々の多くは、ソビエト連邦の崩壊直後にほぼ不可避な経済危機に見舞われた後、生産高の大幅な上昇を経験している。

 中でも躍進を遂げたのがポーランドだ。全般的に見ると、最も真剣に改革に取り組んだ国々が成功を収めている。

移行期にある国で改革を逆行させた国はない

 第2に、これは意外かもしれないが、移行期にある国々で、これまで改革を逆行させた例はほとんどない。EBRDの報告書も「2008年上半期以降の政権交代は、改革への姿勢において変化がないか、むしろ改革推進派の党が選ばれている」と指摘している。

 この点は、もっと広い意味でも、多くの発展途上国で起きていることと合致している。資本主義以外に、信頼に足る代替経済モデルが存在しないことは明白だ。ポピュリスト的な冒険主義も、魅力的には映らない。

 世界経済全体で回復への歩みが勢いを得つつある中、ソ連を盟主とする旧東欧圏の崩壊の大きな遺産――欧州の大部分の統合と、それに付随するロシア国境の手前までの自由の浸透(その先までは広がっていないとしても)――は、今なお損なわれていない。

 それでも、危機は重要な教訓を与えてくれた。哲学者のカール・ポパーが主張したアプローチは、的を射たものだった。ポパーは個々の病巣を改善しようとする「漸進的社会工学」と、社会そのものを丸ごと変革しようとする「ユートピア社会工学」とを区別して考え、後者の目標については、これを実行するとなると「理性の代わりに暴力を用いるしかなくなった」としている。

 改革にあたる者は、治療を試みる前に、まずは病気の原因を突き止めなくてはならない。今回の経済危機においては、市場システム全体にではなく、むしろ世界の金融・通貨システムの欠陥に問題があると言える。

 欠陥の一部は避けられないものだ。未来は必然的に不確実性を孕んでいる。これからも大きな過ちが犯されるだろう。支配的なパラダイムが行き過ぎたリスクテークにつながっている部分では、その修正には大きな痛みを伴う可能性が高い。

 リスクテークが金融機関のバランスシートに大きなレバレッジを利かせていたとあっては、その修正は仲介者にも経済にも壊滅的な打撃を与えるだろう。壊滅を防止できないとしたら、その結末は、歴史が教えてくれるように、劇的なものになる可能性がある。

1930年代の教訓を学んだ政府

 幸いにも、各国の政府と中央銀行は1930年代の教訓から学び、金融システムおよび経済の崩壊を防ぐという、適切な判断を下した。まさに正しい「漸進的社会工学」の手法と言えるだろう。

 同様に、経済危機の打撃を受けた中東欧の国々を救済するため、多くの取り組みが行われた。国際通貨基金(IMF)および欧州連合(EU)からの支援額は、IMFプログラムを受け入れた東欧4カ国でGDP比4~6%(場合によってはそれ以上)に上っている。

 そして今、危機からの脱出を完遂するために、同様の現実主義を取る必要がある。これには全世界的な需要バランスの大幅な是正が不可欠となる。また、さらなる改革も必要だ。移行途上にある国では、金融統合を覆すことは、犠牲も大きく、無益だろう。むしろ、改革で何より優先すべき目標は、急激な変動に対する耐性を強化し、将来の過剰な信用膨張を抑えるという2点でなくてはならない。

 同様に、世界的なレベルでは、金融・通貨システムにおける抜本的な改革が必要だ。露骨に言ってしまえば、現在の金融システムは、容認しがたいほどの規模で納税者のカネをだまし取っている。

 このような状況には、以下に挙げる2つの方法のうちいずれかで終止符を打たなくてはいけない。金融セクターを市場の支配下に置くか、国家による厳重な規制の下に封じ込めるか、だ。繰り返しになるが、規制と通貨政策の策定に際しては、信用バブルの巨大化の抑制という重要な要素を決して欠いてはならない。

巨額債務を抱える超大国の通貨に依存していられない

 最後に、世界通貨システムが過剰な債務を抱える1つの超大国の通貨に依存している現状は、望ましくないだけでなく、このまま維持することはできないはずだ。

 記念日の節目は、現状を顧みる好機である。ソ連が率いた共産主義の崩壊は、輝かしい瞬間だった。その後、過ちや失望があったとしても、その輝きは今も変わらない。だが、今日の危機は、浮かれた資本主義の欠陥を我々に教えている。

 共産主義が消滅したように、資本主義が消滅するようなことはもはやないだろう。だが、自由主義的民主主義の際立った長所は、学んで状況に適応することだ。我々は1930年代から学んだ。そして今、2000年代の教訓からも学ばなくてはならない。

By Martin Wolf
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