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ベルリンの壁崩壊から20年
旧東西ドイツの埋まらぬ経済格差

2009年11月06日(Fri) Financial Times

(2009年11月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

ドイツ人の5人に1人が「ベルリンの壁があった方がよかった」

1989年11月、ベルリンの壁が崩壊し、東西再統一という壮大な実験が始まった〔AFPBB News

 旧東西ドイツの再統一は、世界で最も大胆かつ法外なコストがかかる経済実験の1つだった。だが、ベルリンの壁が崩壊して20年経った今も、1つの疑問が残る。果たして実験は成功したのか、という問題だ。

 1989年の平和的な革命により、東欧諸国の大半は市場経済を喜んで受け入れた。

 しかし、旧ソ連ブロックで最も厳しく統制された経済の一角を占めていた国と、当時の西側でトップクラスの経済規模を誇り、開放経済として最大級の成功を収めていた国の統合は、過去に例のない一大事業だった。

 実際、再統一は巨大な試みで、総費用は1兆2000億~1兆6000億ユーロと推計されている。旧東ドイツ企業に直接支給された補助金、インフラの再構築費用、新しい政治機構の立ち上げ費用、そして1989年に東ドイツに住んでいた1670万人の大半に支給された福祉手当などの総額である。

 昨年の世界的景気後退と戦うために各国政府が大規模な財政政策を行った時、多くの専門家がこの旧東西ドイツの再統一に目を向けた。大規模な政府の介入が先進国経済にどのような影響を及ぼすかを知るのが狙いだった。

韓国人に再統一について聞かれたら、「ドイツの轍を踏むな」

 しかし、再統一に対する関心はもっと幅広い。中でも熱心に研究しているのは韓国政府だ。いつか北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と統合する時に備え、教訓を学び取ろうとしているのである。

 「韓国の友人から経済統一について尋ねられたら、ドイツの事例を勉強して、その轍を踏まないようにしなさいと答えることにしている」。ドイツ東部の都市、ハレにあるハレ経済研究所(IWH)のウド・ルートヴィヒ氏はこう語る。

 一見すると、旧東ドイツ地域の統計統計は良好で、ルートヴィヒ教授の厳しい評価とは矛盾しているように思える。

 例えば、1人当たりGDP(国内総生産)は1991年には旧西ドイツ地域の43%相当でしかなかったが、現在は71%相当に増加している。また、失業者の急増にもかかわらず、住民1人当たりの可処分所得も同じ時期に旧西ドイツ地域の60%相当から80%相当に増えている。

一見繁栄を手にした旧東ドイツだが・・・

 生活水準は今でも旧西ドイツ地域の方がはるかに高いものの、旧東ドイツ6州の生活の質は劇的に高まっており、平均寿命は6年延びた。

 公共インフラも、ブロードバンド通信ケーブルから真新しい高速道路に至るまで、旧東ドイツ地域の方が優れていることが多く、かつて「死のベルト地帯」と呼ばれた旧東西ドイツの境界線沿いの土地は、希少な野生動物が多く生息する自然保護区になっている。

 旧東ドイツ企業は2002年以降、平均すると、旧西ドイツ企業をはるかに上回る成長を遂げている。単位労働コストが旧西ドイツ地域よりほぼ20%低いという利点もあって、収益性でも上回っている。昨年の景気悪化によるダメージも、旧西ドイツ企業ほどひどくはなかった。

 しかし、こうした成果にもかかわらず、経済統一は紛れもない成功とは到底呼べない状況にある。それどころか専門家の間では、再統一から20年を迎えた今、東西の格差は間もなく拡大に転じる恐れがあるとの懸念がささやかれている。

 ある意味で、格差は既に広がり始めている。例えば、旧東ドイツ地域の経済成長率が旧西ドイツ地域並みに低下したことで、1人当たりGDPの絶対額の差は2005年以降拡大している。相対ベースで見ても、旧東ドイツ地域のキャッチアップ(追い上げ)は1990年代半ばからほとんど行き詰まっている。

通貨統合からミスは始まった

 大方のエコノミストは、最初の段階で大きなミスが3つあったと指摘している。第1のミスは1990年7月の通貨統合で生じた。

 通貨交換は統一の第一歩となる事業だったが、「旧西ドイツの1ドイツマルク=旧東ドイツの2マルク」という非現実的な比率で行ったのだ(個人については、貯蓄の一部を1対1で交換することも可能だった)。ちなみに、1989年当時の闇市場では、1対10で交換されていた。

 この通貨交換は当初、旧東ドイツ地域の消費を押し上げたが、同地域の企業の競争力は一夜にして失われてしまった。また、旧西ドイツ地域の労働組合が旧東ドイツ地域の賃金水準を西並みに引き上げようと運動したため、数百万人が職を失う羽目になった。

 さらに、連邦政府直属の機関であるドイツ信託公社が進めた旧東ドイツ企業の民営化事業では、地元から資本を引き出すことができず、旧西ドイツの投資家に頼み込んで資金を出してもらったが、最初から資産の切り売りを狙った投資(いわゆる資産剥奪)がなされたり、結局清算されてしまったりすることも少なくなかった。

的外れの復興支援

 旧西ドイツ地域の大企業は、連邦政府の補助金に誘われて旧東ドイツ地域に事業所を数多く立ち上げたが、地元の当局者たちによれば、復興支援の大半は的外れだった。1990年代前半の不動産・建設バブルをあおるか、維持管理に多額の費用がかかる施設を造るかのどちらかだったという。

 「政治家たちは今でも、企業のニーズなんて当事者に実際に聞かなくても分かると思い込んでいる。おかげで、せっかくの資金が適切に配分されずに終わっている」。ベルリン市政府経済開発局の副ディレクター、ウォルフガング・フンメル氏はそう言ってはばからない。

独メルケル政権、2期目が発足 課題は経済成長

アンゲラ・メルケル首相も、経済の完全統合という目標はまだ手の届かないところにあると認めている〔AFPBB News

 「道路、浄水場、運河、学校、プール、工業団地、住宅地、発電所など、本当に必要だとは言えない施設がごろごろしている」

 旧東ドイツ出身のアンゲラ・メルケル首相は先週、20年前に掲げられた経済の完全統合という目標はまだ手の届かないところにあるようだと認め、「旧西ドイツ地域の2倍に上る失業率が完全に定着してしまった感がある」と述べた。

 表面的には良好な旧東ドイツ地域の統計データも、同地域の深刻な脆弱性を覆い隠しているケースが多い。

統計データに表れない旧東ドイツ経済の脆さ

 例えば、比較的高い可処分所得は多額の福祉手当でかさ上げされたものに過ぎないし、昨今の景気悪化の影響が比較的小さいことも、旧東ドイツの企業が国際市場でほとんど何の役割も担っていないという事実で説明がつく。

 「旧東ドイツ経済がどの程度自立できているのかという点については、大きな問題が存在する」。IFO経済研究所ドレスデン支局のディレクター、ヨアヒム・ラグニッツ氏はこう指摘する。

 「多数の企業が、補助金に依存しているというだけではなく、補助金で人工的に押し上げられた内需にも依存している」「1つ懸念されるのは、経済統合を推進してきたエンジンが消えようとしているのかもしれないということだ」

 国からの支援が段階的に削減されることで、これまで覆い隠されてきた旧東ドイツ地域の欠点が露わになるかもしれない、と専門家たちは恐れている。連邦政府が2004年にスタートさせた総額1565億ユーロの第2次支援プログラムは2019年に終わることになっており、旧東ドイツ地域の州政府はかなりの財政支出の切り詰めを迫られる。

 また同地域では人口が急減しており(既に1990年の水準より200万人近く減っている)、需要も税収も減ることになるだろう。

補助金がなくなれば崩壊するビジネスモデル

 「この地方で経営破綻しそうな企業を見れば見るほど、多くの企業が補助金を中心に据えたビジネスモデルを構築してきたことがはっきり分かる」。旧東ドイツ地域のある政府職員はこう語る。「補助金が無くなれば、このモデルは崩壊する」

 また政府の職員やビジネスマンたちは、旧東ドイツ地域が人件費の安さに代表される比較優位性を活用しようとしても、ドイツの連邦制度やドイツ連邦共和国の法的枠組みが必ずそれを阻止すると不満を漏らす。

 過去20年間の歳月は、経済の完全統合が当面実現しそうにないという認識をもたらした。第2次メルケル政権にとっての真の課題は、東西がこれ以上離れてしまわないようにすることだ。

By Bertrand Benoit
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