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人口と成長と環境:落ち込む出生率

2009年11月02日(Mon) The Economist

(英エコノミスト誌 2009年10月31日号)

驚くべき出生率の低下は、多大な恩恵ももたらしている。

1798年、トマス・マルサスは『人口論』を発表し、人口の増加が世界の食料供給を追い越すと予言した。しかし、発表のタイミングが良くなかった。その当時起き始めたことが、彼の論考を無意味なものにしてしまったからだ。

 現在の先進国となった地域で工業化が進むとともに、特殊出生率がまずフランスで急低下し、その流れが次に英国、さらに欧州全域、米国へと広がっていった。人々が豊かになると、家族を構成する人数が減った。そして、小家族化が進むにつれ、人々はますます豊かになった。

女の子を産みたければアフリカに住むとよい?米大学研究

インドでも、一部地域では出生率が低下している〔AFPBB News

 今、発展途上国で同じようなことが起きている。出生率の低下と小家族化が、一般に子だくさんと考えられている国々――具体的にはブラジル、インドネシア、さらにはインドの一部でさえ――で起きているのである。

 本誌(英エコノミスト)が別のリポートで示しているように、世界の半分の国・地域では合計特殊出生率が今や2.1、あるいはそれ以下となっている。2.1は人口が一定に保たれる特別な数字で、一般に「人口置換水準」と呼ばれるものだ。2020年から2050年までのいずれかの時点で、世界の出生率は人口置換水準を割り込むと見られている。

 マルサス主義の懸念が復活し、地球の人口過剰がもたらす結果が危惧されている今、出生率が低下しているという事実は驚きであり、多少の安心感をももたらすものでもある。こうしたデータは、人口爆発への懸念自体が打ち砕かれつつあることを意味するとともに、気候変動の問題をどう解決すべきかについての教訓も示している。

価値ある諸効果

 今日の出生率低下は、非常に大規模かつ急激に進んでいる。貧しい国々は先を急ぐかのように、豊かな国と同じ形の人口動態上の遷移を経験している。それも先進国に比べて、比較的初期の発展段階から始まり、より急速に変化している。

 合計特殊出生率が5から2まで下がるのに、英国では130年(1800年から1930年まで)の歳月を要したのに対し、韓国では20年(1965年から1985年まで)しかかからなかった。今、発展途上国の女性が出産する子供の数は3人と推計されている。母親の世代は6人だった。

 驚異的なペースで出生率が低下している国もある。例えば、イランの出生率は1984年の7から、2006年には1.9まで急低下し、首都テヘランに限れば、わずか1.5まで落ち込んでいる。社会的変化としては、限界に近い急激な変化である。

 低所得および中所得の社会における出生率の低下は、それ自体が恩恵だ。出生率が下がるということは、ようやく、母親の大多数が欲しい人数の子供を生むようになったということを意味するからだ。その数は――最善の判断として――恐らく2人だろう(出生率の低下が強制的にもたらされた中国は例外)。

 出生率の低下はまた、それが象徴する事象においても恩恵である。それは、弱い立場にある数十億の人々にとって安全性が高まったということを意味しているからだ。自耕自給の農家は、収穫が生活に直結し、略奪や旱魃の被害に遭うリスクを負い、自身と子供しか頼るものがない。こうした人々にとって、8人家族は恐らく災難に対する唯一の保険だろう。

 しかし、工場で働き、車や銀行口座を持つ中国、インド、ブラジルなどの新中間層にとって、極度の不安感はもはや過去の話である。彼らにとって、子供は喜びや責任かもしれないし、あるいは偶然の産物かもしれないが、決して保険ではない。

 さらに出生率の低下は、それが実現するものにおいても恩恵である。つまり、経済成長だ。かつて、人口動態は経済成長に対して中立的な要素だと考えられていた。しかしそれは、1990年代になるまで、出生率低下と所得増加の両方を経験した発展途上国がほとんどなかったからだ。

 今では何十もの実例があり、それらの国が大家族と貧困から富と高齢化に移行する過程で、ゴルディロックスの時期を経験することが明らかになっている。1世代か2世代にわたって、出生率が高すぎず低すぎず、扶養すべき子供や高齢者が極めて少なく、その中間で大多数を占める成人が、条件さえ整えば、産業を発展させていける時期である。

 人口動態上の遷移の途上にある国々にとって、出生率が人口置換水準まで低下することは、唯一無二の貴重なチャンスなのだ。

もう1つの不都合な真実

 マルサスの後継者たちは、ナンセンスだと言うだろう。曰く、一連の議論は肝心な点を見落としている。地球の脆弱な生態系にとって、人間が多すぎるという点だ。

 今こそ人口の増加を食い止め、理想を言えば、減少に転じさせるべき時である。出生率の低下を喜ぶのは、船が氷山に向かう速度が下がっていると言って、タイタニック号の船長に祝辞を述べるようなものだ――と。

 マルサス主義者の言い分は正しい。確かに世界の人口は現在も増加しており、2050年に90億人強でピークに達する前に、環境にはるかに多くのダメージを与える恐れがある。もし急成長中の貧しい国々の経済が先進国と同じ軌道をたどれば、間違いなくこうした懸念は現実となるだろう。

 アフリカやアジアの最も貧しい人々は、1人当たり年間0.1トンの二酸化炭素(CO2)を排出している。これに対して、米国人は1人当たり年間20トンだ。

 経済成長は何億もの人々が極度の貧困から抜け出すのに役立っている。だが、もし貧困国が欧米諸国が通ってきた富の創造のパターンをまねれば、米国人と同じくらい資源を使い、地球は恐ろしい結末を迎えることになる。

 さらに、人口が最も急速に増えている地域は、気候変動の影響を最も受けやすい地域でもある。そのため、人口の増加は、水不足や大規模な人口移動、食料生産の減少といった地球温暖化の悪影響を増幅させる。

 原則からすると、人間が環境に及ぼす影響を抑える方法は3つある。人口政策、技術、そして政治的な統治だ。

「G8 2008年 各国政府は開発目標実現の約束をどこまで果たせるか?」【世界の医療団】

アフリカなどで家族計画が身近なものになっても、世界人口のピークが多少減る程度(写真はリベリアの子供たちを診る世界の医療団ボランティア)〔AFPBB News

 人口政策には、それほど大きな見込みがない。人口の増加は既に、自然減としては限界に近いペースで減速している。特にアフリカのような地域で家族計画が身近なものになれば、世界人口のピークを約90億から85億くらいまでは下げられるだろうが、それ以上の効果を出したければ、中国のように強制するしかない。

 しかし、豊かな国が世界の資源を浪費しているがゆえに、貧しい人々が持てる子供の数を無理やり希望以下に減らすというのは、道徳に反するというものだ。

 人口政策が環境へのダメージ緩和に今以上のことができないのであれば、技術と統治に頼り、世界経済を環境に優しい成長へと転換するしかない。人類は、より安価な技術をさらに多く開発し、地球の自然資本を破壊することなく経済成長の成果を享受できるようにしていく必要がある。

 こうしたことは、各国政府が炭素に価格をつけるなどの政策を利用してそれらの技術への投資を促すと同時に、経済発展が生物多様性に与えるダメージを抑制しない限り、実現させるのは不可能だ。

 出生率の低下は、貧しい人々の生活を向上させているかもしれないが、それだけでは地球は救えない。この問題の解決は、我々自身の手に委ねられているのである。
 

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