JBpress>海外>The Economist [The Economist]

日本のメディアと政治:出ずる日の光を取り込め

2009年10月01日(Thu) The Economist

(英エコノミスト誌 2009年9月26日号)

政権交代がメディアと官僚の馴れ合いを脅かす。

 毎晩、東京にある読売新聞の本社ビルは揺れ始める。8階に入居している本誌(英エコノミスト)のオフィスでも一瞬、地震のような揺れを感じる。だがそれは単に、世界最大の発行部数を誇る読売新聞で、翌日の朝刊の印刷のために建物の奥にある輪転機が回り始める振動にすぎない。

 この1週間余りは、違う類の揺れが読売新聞を襲った。鳩山由紀夫氏率いる新内閣が9月16日に発足し、先の総選挙で敗れたライバル政党の自民党に、半世紀もの間、実権を握らせてきた日本の権力構造に改革のメスを入れると明言したからだ。

 主たる標的となるのは、シェルターのような東京の庁舎から大きな権力を振るってきた官僚である。だが、官僚が握る制御レバーの1つがマスコミであり、マスコミは官僚とのもたれ合いをあまりに享受しすぎてきたと批判されている。

 それゆえ、鳩山氏が首相の座に就くや否や、官僚の力を弱めるために報道機関と事務次官の定例記者会見を禁ずると脅しをかけると、ついに戦端が開かれることになった。

 読売新聞はほんの1日で、すかさず反撃に出た。社説の中で同紙は、鳩山氏に官僚から実権を奪い返す権利があることは肯定しつつ、それがメディアの情報アクセスの犠牲の上に成り立ってはならない、とクギを刺した。

 そして「官僚の口を封じるという決断の再考を求めたい」と述べた。

 この小競り合いは一見、取るに足らないもののように思えるかもしれないが、実はこのことが重大な影響を及ぼしかねない。フリージャーナリストの上杉隆氏が表現するように、日本で米国の「軍産複合体」に相当するものと言えば「官僚メディア複合体」だからだ。

 しかし、官僚とメディアの両方を同時に敵に回せば、新政権は2つの前線に立たされかねない。

 官僚が大きな力を有するようになった経緯は、戦(いくさ)より政(まつりごと)に精を出すよう発破をかけられたサムライのエリートたちがその中心となっていた、何百年も前の時代にさかのぼる。過去50年間、官僚は戦後の衰退した日本を世界第2位の経済国へと生まれ変わらせるため、産業政策の構築に尽力してきた。

 その功績も、この20年間の経済的苦境の中で色褪せてしまった。政治学者の猪口孝氏はそれでも、サムライ精神は今も息づいていると確信する。同氏は官僚社会を、自分たちの身を守るために「亀のような隊列」を組む古代ローマ軍になぞらえる。

 「官僚社会の精神構造はまさに、サムライ当時のままだ。それは強い意思を持ち、忍耐強く、組織的にも非常に強いものだ」

 一方のメディアは、官僚に対して、外部の世界と直接コミュニケーションを取る珍しい手段を提供する。日本の新聞発行部数は1日6800万部と、先進国で最も多く、新聞各社は各省庁内にある「記者クラブ」――19世紀から続く制度で、主要メディアと官僚たちに親密な関係を築くよう促す――という制度の一部に組み込まれている。

 これまで記者クラブ――参加するためには既存メンバーの同意が必要――は、内閣記者会見から外国人記者やインターネットニュースのリポーター、フリーランスの記者(多くの場合ゴシップ屋と蔑まれる)を締め出している、と批判されてきた。

 この仕組みは、情報の共有を促し、スクープの妨げにもなる。自民党政権下で行われてきた日本の排他的政治の後だからこそ大いに求められている調査報道が、記者クラブの存在によって阻まれるのだと批判者は言う。

 一部のマスコミの有力者でさえ、変革の機はとうに熟していることを認める。朝日新聞の主筆で、日本で最も高い評価を受けるジャーナリストの1人である船橋洋一氏は、首相就任記者会見に雑誌やインターネットニュースの記者の出席を認めた鳩山氏の異例の決断を歓迎し、「今やダムは決壊した」と述べた。

 だが、それほど理解のないメディア関係者が、鳩山氏に刃を向けないとも限らない。1000万部の発行部数を誇る読売新聞などは、長い間、自民党と親密な関係にあった。読売新聞グループ本社会長兼主筆の渡辺恒雄氏は、自民党のキングメーカーと目されてきた1人でもある。

 メディアは鳩山氏のスキャンダル――同氏の資金管理団体が献金者リストに死亡者を含む、架空の献金者を記載し、本人もそれを認めている――にも目をつけている。この一件はこの先、鳩山氏を煩わすことになるかもしれない。

 それでも鳩山氏は、記者クラブを放置したりしたら、愚かだ。民主党が8月の総選挙で圧勝した一因は、開かれた政権を約束したからだ。日本の国民は、選挙の当選議員が政権の座に就きながら官僚が実権を握る、不透明な密室政治に終止符が打たれることを待ち望んでいる。

 もしメディアがその制度と共謀し続けるのであれば、日本の現状を打破するという鳩山氏の約束は、全くもって実現が難しくなるだろう。

© 2009 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。