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4000万円も損している日本の若者たち
著者インタビュー 森川友義氏

2009年07月21日(Tue) 川嶋 諭

 「もし若者が事実と真剣に向き合ったら、大暴動が起きるのではないでしょうか。起きない方がおかしいと思いますよ」

 異民族弾圧で世界中の耳目を集めたウルムチばかりか、全国で暴動が頻発している中国の話ではない。日本のことである。そんな物騒なことを言い出したのは、早稲田大学で政治学を教えている森川友義・国際教養学部教授。「だって、この数字を見ただけで自分たちがいかに損をしているか分かるでしょう」

20代は有権者の3分の2が権利を放棄

 森川教授が取り出したのは、今から2年前の参議院選挙での数字だ。

森川友義・早稲田大学国際教養学部教授

 20代:約1500万人に対し、約500万人。
 70代:約1200万人に対し、約900万人。

 20~35歳未満:約2500万人に対し、約1000万人。
 70歳以上:約2000万人に対し、約1300万人。

 これらの数字はその年代の人口と2007年に実際に投票に行った人の数の対比である。20代と70代を比べても、35歳未満と70歳以上の数字を比べても、若者の方が人口は多い。ところが、実際に選挙に行っている人はお年寄りの方がはるかに多いのだ。

 とにかく若者は選挙権を放棄しているとしか言いようがないデータである。20代では3分の2が権利を放棄し、35才未満では実に1500万人が選挙に行かなかった。「これでは政治家が若者のために政治をしようなどという気になるわけがありません」(森川教授)

 究極の季節労働者と呼ばれることがあるように、政治家ほど現金な職業はない。票に結びつく人たちには徹底的にサービスする一方、票につながらない人たちは見向きもしない。日本の政治家にとって、若者のことなど眼中にないのである。

 そんなばかなことがあるのだろうか。天下国家を語り日本を正しい道に導くのが政治家の役割のはず。政治家性善説に立てば全くその通りだろう。

 しかし、政治家の先生たちほど性善説が似つかわしくない人たちもいない。「鍛錬を重ねた絶妙の言い回しで、天下国家を語り日本を正しく導いてるように見せかけて、実際には自分たちの支持者たちに最高のサービスをするのが政治家だ」と森川教授は言う。

 小泉純一郎・元首相による郵政民営化を争点にした突然の解散から4年。その時、国民の大きな支持を得た自由民主党は、その期待の大きさに押しつぶされるような形で、4年後の今、衆議院の解散を決めた。

 小泉元首相による「古い自民党をぶっ壊す」ことに期待した国民を裏切ってしまった自民党は極めて厳しい戦いを余儀なくされている。一方、国民の落胆を受けた民主党には今までにない強い追い風が吹く。それは、日本を変えたいという国民の声が高まっているからだ。今回の選挙戦は4年前に匹敵する盛り上がりを見せるに違いない。

 日本の政治は国民の期待通りに変われるのか。森川教授はとにもかくにも若者の選挙に対する姿勢だと言う。今回の選挙は日本が変わる大きなチャンスととらえ、『若者は、選挙に行かないせいで、四〇〇〇万円も損してる!?』(ディスカヴァー)を緊急出版した森川教授に、日本の政治の行方を聞いた。

政治家は投票所に行く人を大切にする

 刺激的なタイトルですね。若者を挑発しているようです。

森川 そうかもしれません。若者が立ち上がらないと日本の政治が変わらない。次の衆議院選挙にはぜひ投票に行ってもらいたいと思って、あえて4000万円も損しているんだというような具体的な数字を使わせてもらいました。

 4000万円損しているという根拠は何ですか。

森川 これは秋田大学の島澤諭先生が算出した「世代会計」と呼ばれる考え方に基づいています。現在の財政や社会保障などを中心とする政府の支出・収入構造と、今後予定されている年金の支給年齢や医療保険の自己負担率引き上げなどを基に、世代別の損得勘定を計算したものです。

 この計算によると、現在70代の人たちは生涯で差し引き1500万円くらいの得をしている一方で、30歳前後の人たちは2500万円もの損をすることになります。その差が4000万円にもなるというわけです。

 なぜこのような格差が生じているのか。政治家が若者ではなくてお年寄りを大切にしているからにほかなりません。理由は簡単で、お年寄りが投票に行くからです。政治家は「若者を生かす街づくり」を掲げるよりも「お年寄りが安心して暮らせる街づくり」を掲げた方が当選しやすい。当選しなければ政治家には何の力もありませんから、当然の摂理です。

 日本の政治が悪い、政治家は日本の将来を考えていないと批判していても意味がない。投票に行けということですね。

森川 ええ。原則として4年に1回の衆院選挙と3年に1回の参院選挙の2つの国政選挙に行くか行かないかで、こんな格差が生じるのです。投票所に行くのに何時間もかかるわけではないのですから、全くもったいない。

 以前、「無党派層は寝ていてくれればいい」と発言した日本の総理大臣がいました。60代、70代の支持を取りつけたい政治家の本当に正直な意見だと思います。若者たちに立ち上がってもらっては困るのです。しかし、これでは日本は変われません。

日本では人物本位で候補者を選んでもムダ

 約1500万人いる20代の若者で実際に投票に行くのはわずか500万人。一方、70代では1200万人しかいないのに、投票には若者の2倍近い900万人も投票に行っている。若者の政治に対する関心の低さを如実に示している数字ですが、一方で、投票に行けば流れを大きく変えられることを示しているとも言えます。

森川 その通りで、若者たちが日本を変えようと思ったら、大きく変えられるだけの力を持っているのです。ぜひ立ち上がってほしいと思います。

 その際に大切なことがあります。よく選挙に関する全国調査のようなものを見ると、有権者は人物本意で候補者を選ぶという結果がよく出ています。正鵠を射ているように思える結果なのですが、それだけに曲者です。

 実際に会ったこともつき合ったこともない相手をどうして判断できるのでしょうか。もし仮に大変に素晴らしい人であったにしても、日本は政党政治の国なので、人物本位で選んでもほとんど意味がありません。

 これは米国とも違う点です。米国では、どの政党に属していても法案単位で議員の意思が強く反映できます。それなら人物本位で選ぶ意味はあるでしょう。しかし、日本ではそのようなことはほとんどありません。

 候補者がどんな人物であるかを知ろうという努力は日本の場合はムダでしかなく、そんな時間があったら政党の政策を調べた方がいいと思います。

 若者を選挙に、ということですが、若者の政治リテラシーは低いのではないかと思います。それにはどんな原因があるのでしょうか。

森川 確かに政治リテラシーは年齢によって変化しています。私が調査した結果では、20代から少しずつリテラシーが上がり50代でピークをつけます。この理由として、私は「ライフサイクル効果」が大きいと見ています。年齢の変化によって社会との関わり方に変化が生じ、それによって自身が受ける効果のことです。

 端的な例は税金で、給与水準が上がり税金をたくさん納めるようになると政治への関心が強まり政治に対する知識を得ようとします。そして、一つひとつの選挙を通して自分の声が伝わるという経験が生まれているのかもしれません。

日本以外だったらとっくに暴動が起きている

 年齢による構造的な問題だとすれば、若者が大挙して投票に行き始めるとは考えにくいと思いますが、きっかけはあるでしょうか。

森川 若者が気づくことだと思います。私は4000万円の損をしていると書いて気づかせようとしていますが、若者に負担をかける現在の日本のシステムがますます悪化していることを、そして若者の負担がますます増え続けていることを知ってもらうしかありません。

若者は、選挙に行かないせいで、四〇〇〇万円も損してる!?』(森川友義著、ディスカヴァー、税別1000円)

 日本は現在のシステムを維持するために1990年以降、赤字国債を発行し続けてきました。今回の経済危機でも政府の頼りは赤字国債で、結局そのつけは将来に先送りされてしまっています。既に国家の負債は日本のGDP比で160%にも達しています。

 日本がもし会社だったら、社員に対して無給で1.6年間働いてもらわないと返せない額にまで達しています。そんな会社はとっくに倒産していて実際には存在しないでしょう。そんなおかしいことが、国のレベルではまかり通っている。

 若い人たちがそのことを直視することが大切です。そして、立ち上がれば政治を変えることができることも知ってほしい。彼氏や彼女とデートする時間も大切でしょうが、デートしている時にも少し政治を話し合うだけで、日本は変わり始めると思います。

 この本には、特定利益団体や官僚政治の仕組みについても詳しく触れられています。有権者が日本を変えようと思っても政治がなかなか動かない大きな原因になっています。若者たちが立ち上がったら、こういうところまでメスが入るでしょうか。

森川 特定利益団体はどんな国にも存在します。一方、官僚が政策を作ったり、元官僚が実力ある政治家として大きな力を振るったりしているいわゆる官僚政治については、日本の特徴だと思います。この解決には一朝一夕ではいきません。しかし、着実に時間をかけて取り組めば改善できないことではないと思っています。

 私は決して推奨しているわけではありませんが、今の日本の現実を将来を担う若者たちが直視できていたら、それこそ暴動が起きてもおかしくないと思います。日本以外の国だったらとっくに起きているかもしれません。

 幸い、日本はそういう危険な国ではありませんが、日本がにっちもさっちもいかなくなる前に政治に参加して少しずつ変えていくしか方法はありません。若い人たちにはぜひ気がついてほしいと思います。

終わりに 既に有権者となった子供を持つ身としても、この本には改めて考えさせられました。多大なコストをかけて子供を育ててきた人たちにとってもただ事ではありません。35歳までくらいの人に向けて書かれた本だそうですが、いい歳の大人が読んでも、今更聞けないような内容が多く含まれていて参考になりました。