「藤さん、2020年前後に首都圏南部で直下型地震が起きる可能性があるよ」──。角田史雄埼玉大学名誉教授が電話口でこう切り出したのは2月中旬のことだった。

 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)以降、地震学者などが地震予知情報を乱発する中で、「またか」と思われるかもしれない。だが、角田氏は東日本大震災直後に「富士山付近で余震が起きるかもしれない」と語っていた人物であり(3月15日夜、静岡県東部で地震が発生、富士宮市で震度6を記録した)、筆者は「角田氏だけは別だ」と確信している。

地震は本当にプレートの活動によって起こるのか

 角田氏は地質学者として三十数年間にわたり関東甲信越地域を中心に山や丘陵を隈なく歩いて、断層の割れ方やズレ方などを調べてきた。その結果、「地震はプレートの動きによって起こるのではない」という結論に至ったという。

 「地震は地球表面を覆うプレート(厚さ約100キロメートルの硬い板)の移動で起きる」とするプレートテクトニクス理論が1969年に紹介されると、日本の研究者たちはたちまち新理論の虜になった。この理論は瞬く間に日本国内に広がり、小松左京の『日本沈没』(1975年)がベストセラーになるなど広く知れ渡るようになった。1970年代後半にはこの理論に基づいた地震の予知事業も始まり、観測強化地域として「東海沖地域」等が選定された。しかし、40年近く経ってもこの理論通りには地震が起きていない。

 現在は「そもそも地震は本当にプレートの活動によって起こるものだろうか」という考え方が少しずつ研究者の間で広がっているようだ。

 「地震学者は地質学者とはアプローチを異にする。つまり、先に地震の原因をモデル化し、現在の地質状況に見合ったモデルの適否を研究する。こうした機能的な研究方法も必要だが、中には、理論に合わない不都合な地質データの存在を無視し、理論に合うデータだけでモデルづくりをする地震学者もいる」と角田氏は苦言を呈する。