ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた、約2億1500万光年離れたうお座の渦巻銀河「NGC105」。 Image by ESA/Hubble & NASA, D. Jones, A. Riess et al., under CC BY 4.0.

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 2021年12月8日、アメリカ宇宙望遠鏡科学研究所のアダム・リース博士をはじめとする研究グループが、「近傍空間のハッブル定数を精密に測定」したと発表しました*1

 リース博士は、宇宙膨張が加速していることを発見した功績で、2011年にノーベル物理学賞を受賞した一人です。おかげで宇宙空間は暗黒エネルギーという正体不明のものでいっぱいになってしまいました。リース博士のグループが今度は何を発見したのでしょうか。

 ハッブル定数はこの宇宙の膨張する速さを表します。この発表は、ハッブル宇宙望遠鏡などを使いまくって近傍の天体を観測し、近傍空間の膨張する速さを精密に測定したというものです。「近傍」といっても、私たちのいる天の川銀河から20億光年というとてつもなく広い範囲です。(これだから天文学者の言葉をそのまま受け取るのは危険です。)

 ハッブル定数は現在の天文学の熱い話題です。100年間ずっと熱い話題だったのですが、最近は特に議論が沸騰しています。近傍のハッブル定数と、遠方の観測から求めたハッブル定数が食い違うのです。(天文学者も認める「遠方」とは450億光年です。)

 これは「ハッブルテンション(Hubble Tension)」と呼ばれる未解決問題です。宇宙に何が起きているのでしょう。

セファイド変光星、宇宙の大きさを告げる

 まず、エドウィン・ハッブル(1889-1953)という天文学者から話をはじめましょう。彼は、宇宙が(1)人類の考えていたよりはるかに広く大きく、(2)そのうえどんどん膨張していることを見つけたのです。

 今から100年前、世界最大の望遠鏡はアメリカのウィルソン山天文台にある口径2.54 m (つまり100インチ)の反射望遠鏡でした。天文学者エドウィン・ハッブルは、これを使い、現在では「銀河」と呼ばれるぼやっとした星雲を観測し、そこに「セファイド変光星」を見つけます*2

 これは、人類の知る宇宙の大きさを何千倍も何万倍も拡張する発見でした。

 変光星というのは明るさが変わる星です。中でもセファイド変光星という種族は、数日~数十日くらいの周期で規則的にちらちら明るくなったり暗くなったりします。そしてこの周期から、そのセファイド変光星の平均の明るさが予想できるのです。周期の長いものほど明るいという法則があります。

 当時、銀河の正体は不明でした。このレンズについた埃のような天体は、私たちの天の川銀河の内部にある星の小集団なのか、それとも天の川銀河の外部にある巨大な物体なのか、議論になっていたのです。

 エドウィン・ハッブルが銀河の中に見つけたセファイド変光星は、その解答でした。セファイド変光星のちらちらまたたく周期を測れば、その平均の明るさが予想でき、それと、見かけの明るさを比べると、そのセファイド変光星がどれほどの距離にあるのか測定できるのです。

 そしてその測定から分かったのは、銀河という天体が、天の川銀河を飛び出した遥かな遠方、何百万光年もの彼方にあるということでした。それは天の川銀河に匹敵する、恒星の大集団だったのです。

 それまでは、天の川銀河の大きさ(約10万光年)がすなわち宇宙の大きさだと考える人もいたのですが、ここで初めて、私たちの天の川銀河が宇宙に浮かぶ無数の銀河のひとつに過ぎないことが確実となったのです。(ハッブルの観測だけがその根拠というわけではありません。)

 宇宙の大きさは何倍も大きくなりました。ここから観測的宇宙論が始まります。