独裁国家や社会主義国において、国のトップは軍事力を手放さないのが常だ(提供:KCNA/UPI/アフロ)

(金 興光:NK知識人連帯代表、脱北者)

 最近の北朝鮮は、金正恩総書記の実の妹である金与正氏を「偉大なる党中央」だと称している(※「党中央」とは、朝鮮労働党の中心的人物という意味)。金正恩総書記に近しい者で固く団結し、金与正氏の指導の下、力強く進もうという、完全に新しい政治的な状況を作り出しているのだ。

 そのような状況下、北朝鮮の高位消息筋から、金与正氏が初めて最前線の軍部隊に対する党中央軍政指導に出たという、驚くべきニュースが伝えられた。これはすなわち、「党中央」と呼ばれる金与正が、軍隊に対して直接、軍事的かつ政治的な現地視察を行うということである。

 金与正氏の軍政指導は、彼女が党の権力に続き、軍事力まで掌握したという完全に新しい事実を意味している。

 そこで本日は、金与正氏が党中央軍政指導の名目の下、北朝鮮の軍部をどのようにして手中に収め飼い慣らしているのか、どのようにして権力を強化しているのかという点についてお話ししよう。

 北朝鮮の高位消息筋から得た情報は、こうだ。

 去る2021年10月25日、北朝鮮軍総政治局が、【命令書 00187】「金与正同志による初の歴史的な『党中央軍政指導』を受け、限りなき栄光を心に刻み、偉大なる党中央を、命をかけて擁護しよう!」という命令書を示達した。

 その命令書には、北朝鮮軍、党、国家、経済分野に対する軍政指導が始まるにあたり、金与正氏の格別の配慮により最初の指導が北朝鮮軍の最前線部隊から始められるという話に加えて、金正恩総書記の革命思想や指示、党の政策が軍を含む全人民にどう受け止められ、成し遂げられているかを検証する貴重な機会であり、軍に課せられた戦略目標の達成のための名誉ある現地視察だという話が付記されていた。

 そして、この命令書が各部隊に伝えられた後、数日が経過した11月2日、金与正氏は西南前線地区の最前線部隊、第5492軍部隊の管下にある女性中隊を視察した。