Black Swanはどこにいる? と問いつつ未来のシナリオを考える集まりに、今年の初め参加した。

 開催したのは事実上、英国政府。完全オフレコの約束で英国に集まった参加者は50人に満たず、出身国は各大陸にまたがりほどよくばらけていた。

 会場を提供し表向き主催者となったのは「ウィルトン・パーク(Wilton Park)」といって、英国外務省の外郭団体である。

「黒い白鳥」の意味

 「黒い白鳥(black swan)」とは、本来発生し得ないモノやコト、あり得ない何ものかの代名詞だ。

 これをタイトルにした本(Nassim Nicholas Taleb 『The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable』)がしばらく前に出て以来、ほぼ次の定義が定着した。すなわちブラック・スワンとは、

 “発生の可能性は確率論が普段扱う標準偏差の範囲を大きく逸脱して低く、それゆえ当事者には何の準備もないため、寝込みを襲われた場合にその影響が甚大となるような現象”をいう。

 すぐに思いつく事例はテロリズムである。オウムによる地下鉄サリン攻撃や「911」は、日本と米国に突然現れた黒い白鳥だった。

 昨年来続く世界経済の落ち込みも、その崖から転落するような(cliff diving)急激さと落下の深さ、波及度の幅広さをよく予想できた人がいなかったという意味で、ブラック・スワンだった。

 けれども予想が難しいからと言って首をすくめ、思考停止を決め込むのでは政策責任当局として無策のそしりを免れない。地平線にかすむ影だけでも、とらえられないものか。

 自身ロンドンで手ひどいテロ攻撃を受けた英国政府は、そう考えたのであろう、見えない鳥をどこかに見ようとして、参加費用と宿泊費を主催者が負担のうえ全員を招待し、2泊3日の合宿検討会を開いた。

 それが、冒頭に触れた集まりだ。こういう努力のできる政府とは、マジメであるとともに精神に(予算にも)ゆとりのある政府だろう。羨むに値すると思ったから、今回取り上げている。

ブラック・スワンのとらえ方

 所在や出現時期を本来予測できないはずの黒い白鳥を、どうやって視野に取り込むのか。

 英国政府には任務をそれに徹する組織があるのを知り、2度驚かされた。

 主に科学技術の動向を追いかけ、何歩か先の出来事や発展を政府にレーダーよろしく、早期警戒信号として知らせる役を果たす「フォーサイト・プログラム(Foresight Programme)」と、その擁する「地平スキャンセンター(Horizon Scanning Centre)」がそれ。

 後者は関心を広く社会百般に及ぼすとみえ、今回の会議にはここから数人、シナリオを立てる専門家が来て議事を切り回した。