給付金詐欺でキャリア官僚2人が逮捕された経済産業省(写真:西村尚己/アフロ)

 戦後、揺るぎない価値観のように考えられてきた民主主義。だが、合意形成を図り、総意を汲もうとすればするほど、人々は分かり合えないことに不満を募らせ、対立が分断を深めていく。

 米国では、分断を利用したトランプ現象が結果的に混乱を招き、米国議会襲撃という暴力にまで発展した。一方、中国は強引な経済政策を国策で進めながら拡大し、伝統的な米国の正義を掲げるバイデン政権に対し、反米ネットワークを形成することで対抗しようとしている。

 宮家邦彦氏は、27年間にわたり外交官として日本の政治を内と外から見つめてきた。国会議員が「法案の承認者」に成り下がってしまう理由、「回転扉」のない日本の官僚組織と政治任用制度、分断を深める米国政治とグローバリゼーションが生む「ダークサイド」について、『劣化する民主主義』を上梓した宮家氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)に話を聞いた。(聞き手:山内 仁美 シード・プランニング研究員)

(※記事の最後に宮家邦彦氏の動画インタビューが掲載されているので是非ご覧ください)

──「日本の国会議員は真の意味での立法者(ローメーカー)ではない」「日本では重要法案や条約協定の草案策定作業を官僚組織が独占している」「日本の国会議員がローメーカーになれない最大の理由は、個々の国会議員が持つ政策スタッフが実質ゼロに近いからだ」と本書で述べています。

宮家邦彦氏(以下、宮家):日本にも議員立法があるので、完全に官僚が立法を独占しているわけではありません。ただ、今は政府がほとんどの法律を提出しているので、国会議員が単なる「法案の承認者」に成り下がっています。

 個々の国会議員が持つ政策秘書は一人しかいませんし、各委員会が持っているスタッフは、これ自体が一つの官僚組織を作っており、必ずしも議員のスタッフではありません。だから国会議員はなかなかローメーカーになりきれない。

 一方で、実質的に立法を担っている官僚の組織自体が、危機的状況にあります。昔ほど、政府に参加してほしいような優秀な人材が官僚になろうとしない。国会の立法能力は低いままで、立法を自主的に担う官僚組織のレベルも下がる。ということは、日本全体で立法能力が向上しないということです。

 制度というものは何十年も経てば腐食、風化します。だから、法律で作ったものは法律で直していかなければならない。その作業は本来、政治家の仕事です。国民に選ばれて、人々の声を聞いて、それを政策に反映するのが国会議員の仕事なのですから。国会議員の立法能力が現在のように低いままだと、日本の社会全体が停滞し、必要な改革ができなくなってしまうのではないでしょうか。