昨年11月に来日し、国立競技場を視察したトーマス・バッハIOC会長(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 IOC(国際オリンピック委員会)が錦の御旗に掲げる「オリンピック憲章」の「オリンピズムの根本原則」の2項目には、こういう記載がある。

「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」

 果たして、今日の日本国内の状況をもってして、東京オリンピックの開催は、東京都民、日本国民の尊厳が保持されるといえるだろうか。

変異株の猛威を前に先を見通せぬのに「五輪開催」の旗は降ろさず

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、大型連休中の「短期集中」を目的として4月25日に東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に発出されたはずの緊急事態宣言は、期限の5月11日を前に、愛知と福岡を追加して同月末までの延長が決まった。それで今度は、5月16日から北海道、広島、岡山の3道県を加えた。これに準じる、まん延防止等重点措置は10県に及ぶ。東京オリンピックまで70日を切った時点での措置だ。

「短期集中」に失敗したばかりか、明らかに状況は悪化している。それも当初は北海道、広島、岡山もまん延防止等重点措置として政府は分科会に諮問したが、専門家からの強い指摘を受けて、緊急事態宣言に方針転換している。

 菅義偉首相は、14日の決定後の記者会見でこう発言している。

「政府としても、変異株が広がる中で、今が感染を食い止める大事な時期だという考えに変わりはなく、専門家の御意見も尊重し、今回、追加の判断を行いました。期間は東京などの都府県と合わせて今月末までとし、その後の対応については、その時点で改めて判断を行ってまいります」

 いきあたりばったりもいいところだ。それでも、東京オリンピックは開催するつもりらしい。記者の質問に繰り返しこう答えている。

「いずれにしろ、選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、安心をして参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく。これが開催に当たっての基本的な考え方であります」