新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」から選りすぐりの記事をお届けします。
インドオートエキスポ 2018でコンセプトカーを発表したマルチ・スズキ(写真:ロイター/アフロ)

(文:緒方麻也)

不況に喘ぐインド自動車業界の救済策が発表された。カギを握るのはクルマのスクラップ。そのワケは?

 インドのニティン・ガドカリ陸運・幹線道路相は3月18日、老朽化した自動車の買い替えを促進する「自主廃車政策」の詳細を発表した。自主的にクルマを廃車するオーナーに対し自動車メーカーが新車購入代金の5%をキャッシュバックすることなどを柱とする。

 この新制度は新車販売の追い風になるだけでなく、排ガスの軽減や燃費向上による環境負荷の軽減や省エネ、金属資源のリサイクル、さらには新規雇用創出などにもつながる「一石五鳥」の新政策として期待されている。

「廃車ほぼゼロ」という都市伝説

 対象となるのは製造から15年以上が経過した商用車と20年が過ぎた乗用車。前述した新車購入代金のキャッシュバックのほか、課税や車検の義務化なども盛り込む方針だ。

 2018年に約517万台の自動車(商用車を含む)を生産し世界第4位の自動車大国となったインドだが、クルマのスクラップは先進国に比べて大きく遅れている。

 ここ10年で側板が大きくへこんだバスやクラシックな英国式スタイルで知られた「アンバサダー」などは大きく数を減らし、それぞれ冷房や電光掲示板付き新型バス、マルチ・スズキやタタなどのコンパクトカーに置き換わった。しかし、いったん農村部に行けば、使い込まれた年代物のトラックや乗り合いバスが黒煙を上げて走り回る光景が今もみられる。

 良くも悪くもモノを大事に使うことで知られるインドでは、2000年代初頭まで「自動車の累計生産台数と保有台数がほぼイコール」、つまり廃車が限りなくゼロだったという「都市伝説」があるぐらいだ。

 政府データによると、直ちに自主廃車の対象となる老朽車両は乗用車などが約850万台、商用車が約170万台に達すると見られており、インドの排ガス規制「バーラト・ステージⅥ」が導入されると、不適合車は2800万台に達する見通しだ。

 課税などを導入してもこれらを100%廃車に誘導するのは困難だが、新車販売が伸び悩む中で一部でも新車に置き換われば、業界の支援という点で大きなインパクトとなる。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
ブラジル・ボルソナーロ大統領に強敵現る
CO2排出ネットゼロ時代に「プラスチック」は消えるのか
【特別企画】米中対立激化で揺れる朝鮮半島(6・了)次の挑発狙う北朝鮮に米「理念外交」は通用するか