ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイの株主総会。コーポレートガバナンスという面では米国が先を行く(写真:AP/アフロ)

(植田統:弁護士、名古屋商科大学経営大学院教授)

 例年、2月、3月頃の新聞を見ていると、上場企業での社長交代の記事を多数見かける。おそらく多くの人は「あの会社の社長が代わるのだな」程度で読み飛ばしていると思うが、実はここに日本企業のコーポレート・ガバナンスの欠如が読み取れる。

 日本企業の多数が3月決算で、6月に株主総会が開かれるにもかかわらず、なぜこの時期に社長が交代するのか、考えたことがあるだろうか。本来、株主が新しい取締役を選出して、新しい取締役会ができたところで、社長を選任するのが筋ではないのか。それなのに、なぜこの時期に社長交代が行われるのかを考えてみよう。

1.会社法に従うと社長はどうやって選ばれるはずなのか

 会社法の仕組みによれば、株主総会で取締役を選び、その取締役で構成された取締役会で「代表取締役」を選ぶというのが正しいやり方である。会社法には「代表取締役」の選任の規定しかなく、「社長」や「会長」を選任するという条文はない。「社長」「会長」「専務」「常務」は会社内での序列で、定款に定められており、やはり取締役会で決議される。

 会社法上は、会社を代表して契約書に押印できる「代表取締役」か、ただの取締役かでしかない。余程大きな会社であれば、「代表取締役」が3人も4人もいるところがあるが、一般的に「社長」が唯一の「代表取締役」という場合が多い。その場合、定款の規定は「取締役会は、その決議をもって取締役の中から代表取締役社長1名を定める」となっている。

 以上が「代表取締役=社長」選任の手続きである。解任についても、取締役を解任できるのは株主総会、「代表取締役=社長」を解任できるのも取締役会である。つまり、取締役は会社の究極の所有者である株主に選ばれ、「代表取締役=社長」は株主を代表する立場の取締役で構成される取締役会の場で選ばれる。

 日本企業は3月決算のところが多く、多くの会社では定款で決算期から3カ月以内に株主総会を開くと定めているところから6月末に株主総会が開かれる。会社法の仕組みに従えば、6月末に取締役を選任し、その新しい取締役の中から「代表取締役=社長」を選ぶというのが筋である。

 その筋通りにせず、4月1日に「代表取締役=社長」を交代させる理由はどこにあるのか。取締役の選任過程と「代表取締役=社長」の選任過程の2段階に分けて見ていこう。