オンライン形式で首脳会談を実施した日米豪印の首脳(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 バイデン大統領は3月26日のデラウェア州における記者会見で、英国のジョンソン首相と電話会談を実施し、中国の「一帯一路」政策に対抗すべく、民主主義国家で広域経済圏イニシアチブを構築することを提案したと語った。英ジョンソン政権は、これを完全に肯定してはいないものの、中国への対抗策について話し合ったことについては認めており、どうやら英米を中心とした国際戦略の構想づくりが始まるらしい。

 しかし、この報道に「えっ?」と疑問に感じた読者も少なくないのではないだろうか。中国の一帯一路政策への対応としては日本の提唱で始まった日米豪印戦略対話(通称、Quad:クアッド)があり、これに英国も参加するというのがこれまでの認識だったはずだからだ。

 当然、日本にもこの話は駐米大使館を通じて事前に連絡が来ていただろうが、この構想が米国のインド・太平洋戦略の中心になるとすると、日本は主導的役割から単なるメンバーの一国になってしまう。これをどう受け止めるべきなのだろうか。

米国が避けたい中国との軍事衝突

 バイデン政権は、トランプ政権時に米国が中国からの輸入品に課した関税を維持すると言いつつも、その中身については見直しを行っている。「アメリカ・ファースト」という経済的利益優先の外交から価値観外交に移行した以上、それはある意味で当然のことである。

 しかし、バイデン政権としては民主主義や自由主義という西側社会の価値観を維持するにしても、その行き過ぎによって中国と直接の軍事衝突が起きる事態は避けたいと考えているだろう。実際、北朝鮮によるミサイル発射に際して国連安保理の緊急招集を見送るなど、中国への配慮は随所に見て取れる。

 現時点では中国に対する戦闘行為を考えるための大義名分も、経済合理性または軍事合理性もないからだ。大義名分については、ウイグルにおけるジェノサイドを挙げる人もいるだろうが、それを理由に、グローバル戦略における覇権争いのための戦闘を始めるのはさすがに難しい。

 仮に、今の米中関係を「新冷戦」という言葉でまとめるならば、旧冷戦時のように最後の核ボタンは誰が押し、核戦争後に誰が生き残るかを考えつつ、局地戦で陣取り合戦をしてきた時代とは異なり、サイバー空間や宇宙空間を活用し、従来とは異なる場所を支配する戦争になるという点を忘れてはいけない。

 その時に米国および同盟国が受ける被害は核戦争以上に予想を立てにくい。サイバー戦や宇宙戦はいまだ検討の域を完全には出ていないからである。大義名分やメリットのことを考える前に、リスクを的確に予測できないという問題があるのだ。