1965年、冷蔵庫を生産する松下電器(現パナソニック)の工場の様子(写真:AP/アフロ)

 経済成長を牽引するのは一体、なんなのでしょうか。根源的な要因の一つは、できるだけ豊かな暮らしがしたいという人々の欲望ではないでしょうか。

「豊かさ」を定義しようと思えば、極めて難しい作業になります。「豊かさ」の感覚は人によっても違います。とはいえ、大きな家に住んだり、たくさんの商品を所有したりすることが、豊かさの指標になることも間違いないでしょう。

 歴史的に見た場合、われわれ人類は食うや食わずの生活を余儀なくされ、明日の食料の心配をしなければならない時代を多く過ごしてきました。人類の歴史の大半は飢えとの闘いと言っても過言ではありません。逆に言えば、そこから脱却してより物資的に豊かな生活をしたいという気持ちによって、人類の営みは突き動かされてきたのです。

 日本人の生活も、長期間にわたり貧しかったと言えます。江戸時代はもとより、大正や昭和初期の時代にも、凶作により全国的な飢饉が起こったりしました。それでも生活水準は徐々に向上し、高度経済成長期に大きく改善されました。高度経済成長とは、日本人の生活水準が欧米に追いつく過程であったといえるでしょう。

世界史上稀に見る経済成長

 現在のアジアを俯瞰すればやはり中国の経済成長が目立ちますが、もう少し歴史のスパンを長く見てみれば、第二次世界大戦後急速な経済成長を遂げたのは文句なしに日本でした。アジア・太平洋戦争に敗北した1945年8月時点の生産指数は、1935〜37年を100とすると、わずか8.7に過ぎませんでした。しかもインフレーションは激しく、1934〜36年の消費者物価指数を100とすると、1949年第2四半期の物価指数は247.8になりました。

 しかし、日本はこのような状況から立ち直り、世界史上に残る高度経済成長を達成しました。それは現在の中国の経済的躍進に匹敵するほどのものでした。

 契機になったのは、1950〜53年の朝鮮戦争特需でした。この特需により、1949年に5億1000万ドルであった輸出額が、56年には25億100万ドルと、約4倍に増加しました。鉱工業生産指数も、同時期に100から316へと飛躍的に上昇しています。朝鮮戦争と特需では、ヨーロッパ諸国も潤ったのですが、日本の利益はそれ以上でした。