(写真はイメージです/Pixabay)

 連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第18回。ITの真の価値は、人間による知の交流を推進した点にある。日本がデジタル化を活かせるかどうかも「知の共有」への前向きな姿勢にかかってくる。元日銀局長の山岡浩巳氏(フューチャー取締役、フューチャー経済・金融研究所長)が解説する。

 古代ヘレニズム時代の文化の中心は、エジプト・アレクサンドリアの図書館でした。図書館が知識を持った人々をアレクサンドリアに引き寄せ、そのことがさらなる知の集結を促しました。第3代図書館長エラトステネスによる、当時としては驚くべき精度で行われた地球の大きさの測定などは、よく知られています。

arXiv(アーカイヴ)の登場

 これまで、知の集積の拠点である図書館を作ろうと思えば、土地を確保し、建物を建て、書物を物理的に運んでくる必要がありました。しかし、インターネットという、特定の中央集権的な管理者を置かずにデジタルベースでつながれるインフラができたことで、今やデジタル空間上に、図書館と類似の知の集積拠点を作れるようになりました。

 インターネット上の百科事典として有名な「ウィキペディア」が生まれたのは2001年ですが、それよりもはるか前、インターネットが本格的に形成された直後の1991年に、“arXiv(アーカイヴ)”が誕生しました。arXivは、基本的に誰でも科学論文をアップロードでき、参加者で共有できるサーバーであり、査読前の論文(プレプリント)であってもアップロードすることが可能です。