日本学術会議を巡る国会論戦には日本の安全保障という最も大切な点がすっぽり抜け落ちている

 野党と左派系マスコミは、日本学術会議(以下学術会議や会議など)会員に推薦者6人を首相が任命しなかった「理由」と、慣例を踏襲しなかったことを「違反」として質している。

 しかも、任命されなかったのは「安保法制に反対した」からではないかと勝手に決めつけ、思想信条で排除したのは憲法違反ではないかと疑問を呈している。

 どこの世界でも昇任や役職などでは基本的に「上申」があるであろうが、任命権者がその任に値するかを総合的に評定するわけで上申通りにいかないことも多いし、上申した方も理由を詳らかにせよとは言わない。

 人間だから好悪感情が関係することもあろうが、それだけが理由になることはなく、また理由の一つであっても表立ってそれは言えない。

 これは常識で野党もマスコミも承知の上で、政権をいびり続けて支持率を低下させ弱らせたい、次なる選挙で得票率を稼ぎたい一心から執拗に質し、「安倍亜流政権」として攻撃したいのであろう。

 しかし、内外情勢の急激な変化と対応の必要性に鑑みれば党利党略でしかなく、国家と国民にとっては百害あって一利なしだ。

多様性を考慮した総合的・俯瞰的で十分

 菅義偉首相は6人を任命しなかったことを「総合的、俯瞰的」に判断したと説明してきたが、執拗に問いただす野党には「安保法制に反対した」からだという文言を引き出したい意図が見え隠れしている。

 学術会議や野党をはじめとする批判者たちが「総合的・俯瞰的」では理解できないというので、さらに「多様性」という言葉で大学、民間、女性、年齢などの構成比率に偏りがあると敷衍し、具体的には旧帝大系7大学で45%、国公立大(帝大系を除く)17%、私立大24%、産業界3%、49歳以下3%などと説明した。

 また、約90万人の科学者の組織でありながら、会員210人と連携会員2000人が候補者を推すことから会員はお互いに近しい間からしか選ばれないことから、首相は「閉鎖的で既得権のようになっている」と会議の硬直性と弊害を指摘し、改革の必要性も考えたとした。

 会議側は女性会員を増やすことなどに努めてきたと反論し、野党はどこまでも「非任命の理由」にこだわり続けている。

 もう一つ野党が質しているのが、推薦された人をそのまま任命するという「慣例」を踏襲しなかったことである。

 中曽根康弘首相(当時)が「推薦者をそのまま任命するのは形式」と答えていることを以って「慣例」重視が政府のあるべき姿ではないかと迫る。