WTOの事務局長選の最終候補に絞り込まれた韓国の兪明希氏(左)とナイジェリアのオコンジョイウェアラ氏(写真:AP/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 EU27カ国がWTO事務局長選挙で、韓国の兪明希(ユ・ミョンヒ)産業通商資源部通商交渉本部長ではなく、ナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ元財務相を支持することで合意したとの報道が流れている。

 これに関し韓国では、「選挙終盤に日本が韓国に対する『ネガティブキャンペーン(落選運動)』に乗り出し、形成が不利になってきている」との憶測が出ている。そして外交関係者の間では「(韓国)政府が韓日関係を管理さえしていれば、このような状況にはならなかっただろう」という声が上がっているそうである。

 韓国は、日本に関することとなると過剰なまでに反応する。日本と韓国の国力の格差があった頃は、日本人はまだ韓国の言動を大目に見る傾向にあったが、今は日本人がこうした韓国の反応に忍耐力をなくしている。そうした要因が相まって日韓関係は過去にないほど険悪になっている。

 そこに加えて、韓国は「菅政権になってからの日本の対韓姿勢も冷めたものとなっている」と受け止めている。そのため韓国の反日的行動はますます強まるだろうし、そのことは日本からの反発を招くことになる。いったい韓国は、日韓関係をどこまで悪くするつもりなのだろうか。

菅総理の所信表明で韓国への言及はわずか2行

 韓国の「中央日報」は、10月26日に行われた菅義偉総理の所信表明演説について、「初めて国会演説をした菅首相、安倍氏よりもひどかった・・・韓国への言及はたったの2行」と題する記事を掲載している。その記事では「韓国は極めて重要な隣国」「健全な日韓関係に戻すべく、わが国の一貫した立場に基づいて、適切な対応を強く求めていく」と述べたと紹介している。

 この発言に関し中央日報は、「『適切な対応は』は、韓国が司法府の賠償判決を覆すか、これに準ずる前向きな態度を先制的に見せるべきという意味だ」、「韓国の態度変化を『強く求める』ということだ」と解説している。その指摘は、実に的を射ていると評するべきだろう。

 さらに同紙は、韓国関係部分は「外交安保領域の最後で、たった2行」で触れたのみであり、「『極めて重要な隣国』と韓国を表現したことも、安倍前首相が今年1月の国会演説で韓国を『基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国』と表現したことに比べると、むしろ後退したという評価だ」としている。

 そして、この演説を巡り、「韓日関係は安倍政権時よりも悪化するのではないかという予想も出てきた」と論評したばかりか、時事通信によって、菅政権は「全体として同国(=韓国)に冷淡な印象となった」と伝えられた事実にも触れている。

 所信表明演説における菅総理の言葉は、簡潔に日韓関係の本質を表していると思う。

「韓国は極めて重要な隣国」である。だからこれまで日韓関係が悪化した時には、これをこじれないように修復するため、日本は相当な譲歩を重ねてきたのである。しかし、今回の問題は、日韓請求権協定で合意した取り決めを韓国が一方的に覆し、国際法に違反する状態を作ったことに原因がある。これを修復するためには、韓国が適切な措置をとる以外にない。