*写真はイメージ

(山田敏弘:国際ジャーナリスト)

 新型コロナの拡大以降、西側の先進国における中国のイメージはますます低下しているようだ。

 米国では、2020年2月の調査で中国を好意的に見ていない米国人の数は67%だったが、7月終わりの調査では73%に増加している。これは2年前から30%近く増えていることになる。また欧州でも、中国のイメージが新型コロナ後に悪くなったと答えた人たちの割合は、フランスで62%、ドイツで48%、スペインで46%と軒並み増えている。

 その傾向の背景としては、ウイグル族弾圧や新型コロナ隠蔽、香港国家安全維持法の制定などの中国の反人権的側面、強権主義的側面を挙げることができるだろう。そこに加えて、米総領事館封鎖や欧州で摘発が続く中国人スパイの存在などで一端が明らかにされた、他国への貪欲なスパイ活動・情報工作の実態もイメージを悪化させる要因となっているはずだ。

 そしてそうしたスパイ工作の中でも、特に問題が顕在化しているのがサイバー攻撃だ。知的財産や機密情報を奪う中国の大規模なサイバー攻撃工作は西側諸国などで長らく問題視されてきたが、最近も中国からの攻撃は世界中で後を絶たない。

 新型コロナ関連情報を盗むサイバー攻撃もあったし、インドとの国境問題が先鋭化した後にはインドの情報インフラ部門や金融機関に大量のサイバー攻撃を仕掛けたし、関係が悪化しているオーストラリアにも激しい攻撃を続けている。そのため豪州政府は最近、中国のサイバー攻撃と戦うために今後5年間で9億3000万ドルの予算を割り当てたほどだ。

 こうした暴力的とも言えるほどの中国のサイバー攻撃について、米FBIのクリストファー・レイ長官は7月、「人類の歴史上、これほど大量の富が奪われることはそう多くない」と指摘したほどだ。

昨年12月17日、スパイ容疑で中国の外交官2名が米港から国外追放処分を受けたことについて、記者会見で批判する中国の耿爽外務省報道官(当時。写真:UPI/アフロ)
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 そうした中、中国のサイバー攻撃の実態を示す新たな実例が台湾からもたらされ、世界中の情報やセキュリティに関わる人々の間でニュースになっている。このケース、中国のたった一つのサイバー攻撃集団がひとつの国家経済をも脅かしかねない事例になっている。

台湾を「サイバー攻撃の実験場所」にしている中国

 もともと台湾は中国と複雑な関係にあるが、そのため以前から台湾は数限りないサイバー攻撃を中国から受けてきた。かつて台湾のサイバーセキュリティ局トップの簡宏偉・局長は、筆者に「中国は台湾をサイバー攻撃の実験場所とみなしている」と語っている。

 台湾が日常的に受けていたサイバー攻撃の中でも、これまでセキュリティ関係者を最も震撼させたのは、2008年に発覚した事案だろう。このときは、30以上の政府機関が大規模なサイバー攻撃を受けてハッカーらに侵入され、台湾の人口約2300万人のうち、1500万人分の個人住所など詳細データやネット検索の履歴などが盗まれていた。

 そして、このほど公表されたケースは、それに匹敵するものと言ってよい。