写真・文=のかたあきこ

1室限定「青森ねぶたの間」。玄関、主室、寝室すべてにねぶたの演出を施す。写真=星野リゾート

ねぶた祭のない、はじめての夏

「青森ねぶた祭のない夏は、戦後はじめてです。東日本大震災の年でさえ行われ、みんなの気持ちが救われた。絆が強まった」 

 ねぶた師の立田龍宝(たつたりゅうほう)さんはこう話はじめた。青森ねぶた祭で大型ねぶたの制作指揮をする「ねぶた師」である。

青森屋でねぶた制作に励む、ねぶた師の立田龍宝さん(2020年7月12日撮影)

「ねぶた祭のない夏なんて考えられない。中止決定から数カ月の今も信じられません。仕方ないとはいえ残念でなりません」

 新型コロナウィルス感染症の影響で全国の祭りが相次いで中止になる中、東北も例外ではなかった。東北の夏祭りは2019年、過去最高の約1616万人の来場者を数え、その中でも青森市の「青森ねぶた祭」は約285万人と圧倒的だった。

 毎年8月2〜7日に実施される「青森ねぶた祭」の中止は、2020年4月8日に発表された。関係者が早々に苦渋の決断を行った理由のひとつには、最大の特徴である大型ねぶた(山車)の制作に膨大な時間と人と資金を要することにあった。

 本番では幅9m、奥行き7m、高さ5mものねぶた22台が、青森市中心部を夜間運行する。正装「ハネト」衣装の参加者らが、ねぶたを威勢よく盛り上げながら練り歩く。その様は勇壮かつ幻想的、そして会場の一体感は半端ない。立田さんが「ねぶた祭は東北の厳しい冬を乗り越えるエネルギー」というのも納得できる。

 

地域連携「ねぶた共同制作プロジェクト」

 青森県三沢市の温泉宿「星野リゾート  青森屋」では、「ねぶた共同制作プロジェクト〜青森ねぶた祭の中止に負けず元気を届ける〜」を7月3日からスタート。9月末まで行っている。

 青森屋の岡本真吾総支配人は話す。

「青森ねぶた祭の中止決定により、ねぶた師の方々は一年に1度の大きな制作機会を失いました。以前から当館でねぶたの展示をするなど交流があり、何か私たちにできることはないかと考えました。中止を知ってすぐに連絡をとり、ねぶた師さん3名のご協力で『ねぶた共同プロジェクト』がはじまりました。ねぶた制作の過程をぜひご覧いただき、応援していただきたいと思います」

「青森屋」総支配人の岡本真吾さん。

 館内、大浴場前の「じゃわめぐ広場」では9月末までの毎週末、ねぶた師がねぶた制作を行っている。工程は大きく分けて、【骨組み】【電気配線】【紙貼り】【書割り】【ロウ書き】【色付け】となり、その過程すべてを一般に披露するのはとても珍しい。

金魚ねぷたが目を引く「じゃわめぐ広場」をはじめ、館内には写真映えスポットが豊富。

 指揮をとるねぶた師は先の立田さん、立田さんの師匠である内山龍星さん(ともに千葉派)、そして北村春一さん(北川派)だ。流派が違うねぶた師が、ひとつの作品を作るのは今回がはじめての試みだそうだ。題材を「悪疫退散 守護神 降臨」とし、3人それぞれが不動明王、毘沙門天、鍾馗(しょうき)の神を制作し、1台のねぶたに仕上げていく。

 2020年7月12日の取材時は骨組みが完成したところだった。翌週には電気配線作業風景を青森屋のスタッフがSNSで発信。だんだんと仕上がっていく過程に立ち会える喜びがあり、毎週訪れたい気持ちになる。

 

祭り文化のおかげで宿が再生できた

 岡本総支配人は「青森屋の再生は、青森の祭り文化のおかげと思っています。だから恩返しの気持ちがあります。こんな時だからこそ、地元が地元を応援する。もっといえば青森、東北、そして日本のみなさまに元気を届けられるプロジェクトを目指します」と話す。

 青森屋は星野リゾートが運営をはじめた2005年以降、「365日青森を体感できるリゾート」をコンセプトに掲げ、スタッフが一丸となり努力を続け、青森4大祭りやスコップ三味線ショーをはじめ、青森文化が毎日体感できる滞在施設となった(連載第1回参照)。

「みちのく祭りや」で開催の青森四大祭りショー。感染症対策を徹底し、入場チケット制などの新体制で再開。8月は屋外公演も実施。