宇宙に長期間いると、視力障害や失明につながる神経眼症候群という病気にかかる可能性が上がる。そこで、窪田は小型の眼科検査装置を開発した(提供:Russian space agency Roscosmos/ロイター/アフロ)

 全世界で2億人近い人が罹患している加齢黄斑変性。加齢によって網膜の中の黄斑と呼ばれる部分が損傷する病気だ。病気の進行とともに視力が低下し、最終的に失明に至る場合も少なくない。欧米では、50歳以上の失明原因の1位と言われている。

 眼科医で米ワシントン大学の研究者だった窪田良氏は、「目のアルツハイマー」とも呼ばれる加齢黄斑変性を治療するため、2002年にシアトルでアキュセラを創業、網膜に蓄積する有害代謝物の生成を抑える経口薬の開発を進めた。

 その後、実際に患者に投与し、効果を見る臨床試験(臨床2b/3相)まで開発を進めたが、臨床試験では期待した結果が出ず、開発は失敗に終わった。投資家の高い期待を受けて高騰していた株価も暴落、市場では投資家の怨嗟の声がこだました。俗に言う「アキュセラショック」である。

 加齢黄斑変性の新薬開発で一敗地にまみれた窪田氏。だが、彼は再び立ち上がり、眼科領域の新薬やデバイスの開発を続けている。現在の窪田製薬ホールディングスは研究開発特化のベンチャーのため、上場企業ではあるものの売上高はゼロ。アキュセラを上場させたときの資金と株主の出資など軍資金は残っているが、現在のペースで現金を燃やせば2〜3年でなくなってしまう。それでも、研究開発のアクセルは緩めない。

 失敗しても再チャレンジが当たり前のシリコンバレーとは異なり、日本では派手に失敗すると再起がなかなか難しい。その中で、なぜ創薬の世界に戻ってきたのか。そして、今回の成算やいかに──。“世界一”あきらめの悪い男、窪田氏に話を聞いた。(聞き手、篠原匡・ジャーナリスト)

近視の治療を目指す「クボタメガネ」とは

──加齢黄斑変性の臨床試験が不調に終わった後、本社機能を日本に移し、窪田製薬ホールディングスを発足させました(現在は東証マザーズに再上場)。現在はどの分野に注力しているのでしょうか。

窪田良氏(以下、窪田):以前からの眼科領域における新薬と医療用デバイスの開発を進めています。足元で言えば、ウェアラブル近視デバイスの「クボタメガネ」が注目を集めています。眼鏡のレンズにから網膜だけが認識する画像を映し出し、その画像の刺激によって近視の原因となる症状の進行を抑制し、治療を目指すというデバイスです。AR(拡張現実)のテクノロジーを活用しています。