米政府が閉鎖を命令したヒューストンの中国総領事館(2020年7月22日、写真:ロイター/アフロ)

(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)

やられたらやり返す

 米国政府は7月24日、「中国軍による知的財産窃盗の震源地となっていた」として、テキサス州ヒューストンの中国総領事館を閉鎖した。その報復措置として中国政府は7月27日、四川省成都にある米国総領事館を閉鎖した(日本経済新聞7月27日)。

 5月14日に台湾のファンドリーTSMCが中国のファーウェイ向け半導体を出荷しないことを決めて以降、米中ハイテク戦争が再び激化する様相を呈している(参考「半導体の歴史に重大事件、ファーウェイは“詰んだ”」)。上記の米中政府の行動は、7月19日から放送が始まったTBS日曜劇場の『半沢直樹』でおなじみの「やられたらやり返す」という文句を彷彿させる。

あまり知られていない米国の国防権限法2019

 そして、筆者が現在最も心配しているのは、8月13日にその第2段が施行される米国の「国防権限法2019」の影響についてである。この法律については、JBpressにも昨年、『米国はファーウェイを叩き潰す気だ 日本企業も追い詰める「国防権限法」の恐ろしさ』(2019年5月29日)を寄稿した。

 また、昨年5月22日に行ったサイエンス&テクノロジー主催の講演会では、国防権限法2019の内容を解説した上で、日本企業にどのようなインパクトがあるかを詳細に説明した。それだけでなく、昨年は、筆者が記憶しているだけで、国防権限法2019に関する講演を合計8回行った。

 このように昨年来、筆者は、日本企業に対して、国防権限法2019の恐ろしさを、可能な限り警告してきた。そして、8回にのぼる講演で感じたことは、まず、米国のエンティティーリスト(EL)と国防権限法2019を混同している人が多いことであった。次に、筆者の講演を聞いて国防権限法2019の内容を理解すると、「これはまずいぞ」と青くなる人が多かったことである。上記の結果から、日本企業および経済界では、国防権限法2019があまり理解されていないと思うに至っている。

 そこで本稿では再度、国防権限法2019の内容を説明し、そのインパクトを論じる。日経新聞(7月16日)は、国防権限法2019の施行によって、米政府と取引できなくなる日本企業は800社を超えると報じている。しかし、筆者は、この800社超が取引している1次サプライヤー、2次サプライヤー、3次サプライヤーなどを考慮すると、もっと多数の日本企業が影響を受けると危惧している。もし、まだ何もしていない企業があるのなら、可及的速やかに対策を講じることをお勧めする。