ソウル駅で「北朝鮮、南北共同連絡事務所を爆破」のニュースを見る人々(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(朴 承珉:在ソウルジャーナリスト)

 北朝鮮がついに“行動”を起こした。6月16日午後、開城工業団地にある南北共同連絡事務所の建物を爆破したのだ。

「近い将来、無用な“北南共同連絡事務所”が形もなく崩れる悲惨な光景を見るだろう」

 このように、今月13日に発表された金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長の談話の中で、建物の爆破は予告されていた。だが、それからわずか3日後に実行するという荒業だった。

 南北共同連絡事務所は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が南北関係で挙げる一番の業績と思っているシンボル的なものだ。そのシンボルを金正恩(キム・ジョンウン)、与正兄妹が直撃したのだ。兄妹の怒りが如実に伝わる。文大統領は相当のショックを受けただろう。

文大統領のメッセージに「爆破」で返答

 この象徴的な“パフォーマンス”で南北関係は一気に2018年板門店南北会談前の原点に戻ってしまった感じだ。金正恩政権は、文大統領が心の中で業績としていたものを的確に見抜いていた。

 これにより、2018年4月27日に南北首脳が合意した「板門店宣言」により、同年9月に開城にオープンした南北共同連絡事務所が開所19カ月ぶりに廃止されることになった。事務所建物の建設費用は韓国が約180億ウォン(約17億円)支払っていた。

 韓国軍は、開城の南北共同連絡事務所の爆破後から、軍事境界線(MDL)地域で突発的な軍事状況に備え、対北監視・態勢を強化した。

 文在寅大統領は15日、2000年6・15南北会談20周年のメッセージの中で、「南北が共に突破口を捜し出していく時になった。条件がよくなる時を待っていられない時間まできた」とし、「南北が自ら決めて推進する事業を積極的に探して実践して行ってほしい」と述べたばかりだった。

 この文大統領のメッセージは、金与正氏などの要求に応えて、国連やアメリカの制裁が解除されるまで待ていられない、という意思を表明するものだ。

 金与正氏らから連日のように発せられる激しい談話に、文大統領はこのように応えたわけだが、このメッセージでは、金正恩政権は満足できなっかたようだ。文大統領のメッセージに「言葉ではなく行動で経済協力にもっと誠意を見せてくれ」と、“爆破”で返答したのだ。

 これから文在寅大統領は、さらなる挑発をチラつかせながら「制裁の枠組みを破ってわれわれに経済協力しろ」という金正恩委員長と、「制裁の枠組みからの離脱は駄目」というトランプ大統領との間に挟まれて、苦悩の日々を送ることになるだろう。そして文大統領の今後の出方によって、局面は相当大きく揺れていく可能性がある。

 一方、青瓦台(大統領府)国家安全保障会議(NSC)は16日、声明を発表し「我が政府は今日、北朝鮮側が2018年『板門店宣言』によって開設した南北共同連絡事務所の建物を一方的に爆破したことについて、強い遺憾の意を表明する」とし、「政府はこれによって発生するすべての事態の責任が全面的に北朝鮮側にあることを明確にした」と明らかにした。

 続いて「北側が状況を悪化させる措置を取る場合、我々はそれに強力に対応することを厳重に警告する」と述べ、北朝鮮を非難した。ただ、この会議には文大統領は出席していなかった。