対策は分権、データは集中管理せよ

 東京のロードマップは、世界に例をみない特異なものだ。これは、認識しておくべきだ。都民・事業者に対しては、なぜ東京だけそこまで慎重に自粛・休業を要請するのか、十分に説明されなければならない。私自身は東京都民だが、少なくとも今のところ、その必要性が全く理解できない。

 しかし、東京ロードマップはおかしい、とまでは言い切れない。コロナウイルスはまだわからないことが多い。この先数か月たって、世界中で「やはり東京ぐらい慎重にしておくべきだった」となる可能性も否定できない。

 その観点で、東京と大阪で異なる出口戦略がとられることは、必ずしも悪いことではない。もちろん、それぞれの地域で理解が得られる範囲内との前提だが、その限りなら、結果を見比べつつ軌道修正も可能になる。次の波に備えても、複数の戦略を試しておくことは意味があるだろう。

 ただ、対策を分権的にするならば、もうひとつ重要な前提条件がある。データは正確に把握・開示し、地域を超えて共通指標で比較できるようにすることだ。

 残念ながらこれまで、公的に開示されているデータの正確性にはいろいろと問題があった。例えば、東京都の公表する入院者数は、5月11日までは実際に入院していない人も含む数値で、時系列のデータ比較ができなくなっている。これは楊井人文氏が明らかにし、その後、東京都のウェブでもその旨が記載されている。

(参考)https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20200520-00179464/

 また、厚生労働省の公表する検査数データに問題があることは、筆者も以前に指摘した。その後、若干の改善がなされたが、今も「検査人数」か「検査件数」かは都道府県によってまちまちだ。横断的なデータ比較は正確にはできない。

(参考記事)こんなにある、PCR検査を巡るフェイクニュース
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60411

(参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000633022.pdf

 これらの問題には、共通の要因がある。手作業による事務処理ミスなどもあるが、より本質的なのは「データの地方自治」問題だ。感染者数や検査数はじめ各種データは多くの場合、自治体がそれぞれの手法と書式で集計する。国は、「地方自治」のもとそれぞれの手法等を尊重し、集計結果をまとめる。このため、「検査人数」か「検査件数」かすら不統一などということが生じるし、集計時の混乱や間違いも生じやすい。

 さらに、都道府県の下には市区町村がある。東京都の場合は、23区にそれぞれ保健所があり、都はそれぞれの区が集計したデータをもらってまとめる。ここにも「地方自治」問題があり、都が区に指揮命令はできず、集計時の混乱は重畳する。こうして、迅速で正確なデータ公開が阻害されている。

 背景にはさらに、個人情報保護条例などの問題も横たわる。自治体の保有する個人情報は国の法律で規律されず、自治体がそれぞれ個人情報保護条例を定めている。条例の内容は自治体ごとにちょっとずつ違い、データベースのオンライン接続などもそれぞれの条例で制約される。「個人情報法制2000個問題」(2000は全国自治体等の数)とも呼ばれる問題だ。ルールがばらばらでは問題が生じがちなので一本化すべきとの議論が長年あったが、「地方自治」を盾に進まなかった。それどころか、データの書式を統一する程度の話さえ、「地方自治」との兼ね合いで動かないことがままあった。こうした問題が今回噴出している。

 少なくとも、データの集計手法と書式は国で統一し、集中管理すべきだ。これまでの日本では、データ管理は地方自治、一方、実質的な対策は中央集権的な傾向が強かった。後者は小池知事が「自分は中間管理職だとわかった」と発言したとおりだ。これを逆転し、対策は分権、データは集中管理にしたらよい。

都道府県データモニタリングの試作版

 今後、都道府県ごとの状況を横断的に比較できるように、データモニタリングのイメージを参考まで試作してみた。

情報検証研究所にて作成
https://johokensho.hatenablog.com/entry/2020/05/22/185411
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 新規感染者数、医療提供体制、検査体制について、公開データを整理し、それぞれ「要注意水準」(黄色)、「要警戒水準」(赤色)を以下のように設定している。

1)新規感染者数
・政府の基本方針(0.5人を目安としつつ、1人程度以下なら総合判断)に沿って、7日間10万人あたり0.5人、1人を指標とした。

2)医療提供体制
・コロナ用に確保した病床、重症者用病床の使用率について、40%、60%を指標とした。これは、大阪モデルの指標(重症者用病床使用率60%)を参考としている。

・また、ICUの総数との比率もとった。上記の病床使用率は、病床を多く確保するほど低くなるが、他の疾患患者への影響なども考慮すべきと考えられるためだ。ここでは、日本集中医療医学会が、コロナの重症患者を収容できる上限は「(ICU総数6500のうち)1000床に満たない」(4月1日)と表明していることも参考に、10%、20%と設定した。

3)検査体制
・陽性率については、大阪モデルの指標(7%)のほか、WHOの勧告で陽性率の適正水準は3~12%とされていること(5月14日専門家会議会見にて言及)を踏まえ、7%、12%を指標とした。

 あくまで試作で、不備や抜け落ちもあると思う。今後、国がデータを集中管理し、国民向けにわかりやすく公開していくうえで、参考になれば幸いだ。