新型コロナ対応で注目度が上がる吉村洋文・大阪府知事。右は松井一郎・大阪市長(Natsuki Sakai/アフロ)

 新型コロナウイルスは「ポスト安倍」の首相争いにも影響を与えつつある。その候補者として、吉村洋文・大阪府知事の名前が浮上していると言うと、先走りすぎ、あるいは単なる妄想と批判されるだろうか。

 筆者は米シンクタンクからの依頼で、2月初めから4月8日までと、その後から5月4日までの期間、主要な政治家の発言やSNSでの発信、メディアで取り上げられた回数、実績などとユーザーの反応を調査、分析した。対象とした政治家はおよそ10人で、ゲーム理論を応用した手法で分析している。集めたデータはあまりに膨大なため、深層学習を活用した。

 今回の分析は非公開のため、ここで分析結果の詳細をすべて開示することはできないが、結果を先に言うと、安倍晋三首相、小池百合子・東京都知事、吉村大阪府知事の3人の露出度が突出していた。中でも、新型コロナを乗り切り、不安を抱える国民を鼓舞できる人材として、吉村府知事の存在感は出色だ。

 安倍首相、小池都知事は全国区の知名度を持つ上に、国民受けするパフォーマンスには慣れている。それに対して、吉村府知事は全国的には無名で、記者会見での説明も流ちょうとは言えない。その中で吉村府知事が浮上したのは、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)によって自治体の長の権限が増していることも理由の一つだが、彼自身の対応が将来の成功につながる可能性が高いと導けることによる。

 本人が望んでいるかどうかは分からないが、自治体の長が一国の宰相に上り詰める可能性がある。吉村知事の浮上は、新型コロナ対応としての緊急事態が産み落としたサプライズと言える。

今もってマスクが高い理由

 筆者が専門にしているゲーム理論では、将来を予測する際に、「再帰性理論」と呼ばれる考え方を加味した応用ができる。実際に政策立案に活用している立場での解釈だが、再帰性理論とは、常に正しいわけではない人間の行動がトレンドを作り、そのトレンドが現実に影響を与えていくため、従来の経験則から乖離するという現象を説明したものだ。

 例えば、新型コロナの感染拡大初期にマスクの転売が問題になった。感染拡大で世界的なマスク不足に陥ると考えた悪徳業者がマスクの値段をつり上げて販売したという問題である。ゲーム理論では、マスクの買いだめは個人としての合理的行動と考えられるが、一方で「買い占め→高値転売」という市場全体の不合理を合理的行動に隠して容認することにつながってしまう。マスクを高値販売した静岡県の県議会議員がいたが、その反社会的行動が発覚しても辞職しない理由はこの辺にあるのかもしれない。

 そこで、この手の問題が起きたときには政府が政策的に介入する。今回も政府は3月15日以降のマスク高値転売を禁止し、悪徳業者を排除することで価格を戻そうとした。ただ、その後も高値でマスクを転売している業者がいるように、上手く抜け道を探そうとするのが人間だ。当の静岡県会議員も、悪行を働いたことの詫びどころか、その暴利を購入者に返還することさえしていないようだ。そうなると、政府介入の効果ではマスクの価格を元に戻せない。つまり、「感染予防をできるマスクは高い」という社会の認識が実態とは異なる価格トレンド作ったということであり、理屈とは異なる結果が出てきてしまうのだ。以前ほどではないにせよ、今もってマスクが高い理由である。

 なぜ再帰性理論の話を出したかというと、政策を考えるときに、最適な未来からさかのぼって考える必要があるということを指摘しようと思っているからだ。