新型コロナウイルス感染症のパンデミックを引き起こした中国・武漢では感染が収まり、市民が散歩する姿が見られるようになった(4月9日、写真:AP/アフロ)

 中国の武漢市中心病院・南京路分院の救急科主任(200人の看護師を束ねる長)の艾芬(アイ・フェン)女医が、今次の新型コロナウイルス患者が担ぎ込まれた以後の顛末を記した手記が『文藝春秋』2020年5月号に掲載された。

 3月13日付全国紙が「湖北省医師の告白、ネット削除」「市民ら怒り 絵文字で抵抗」(朝日)などと報道した原文の日本語訳である。

 中国共産党系の月刊誌「人物」が3月10日のサイトで発表したが数時間後に削除したもので、習近平国家主席が武漢市を視察し、「ウイルスは抑え込んだ」と公言した日である。

 中国政府がいかに対処し(対処せず)、また世界保健機関(WHO:World Health Organization)や国際社会に発信した(発信しなかった)かが手に取るように分かる。

 発生源の突き止めも大切ではあるが、ここではとりあえず、武漢で感染者が見つかって以降の初動と対処がどうであったかを艾芬主任の手記から引き出してみる。

武漢市衛生健康委員会から口止めされた

2019年12月16日:患者が運び込まれる。原因不明の高熱が続き、各種治療薬の効果なく、体温も下がらない。

22日:呼吸器内科に移してファイバースコピーで検査、気管支肺胞洗浄、検体サンプルを検査機関に送る。シーケンシング技術のハイスループット核酸配列の検査実施。

「コロナウイルス」との口頭報告あり。病床管理の同僚が、耳元で「艾芬主任、医師は『コロナウイルス』と報告しましたよ」と何度も強調。(患者は武漢市の華南海鮮卸売市場で働いていたことが後に判明)。

27日:別の病院で治療(17日から10日間)を受けていた患者が運び込まれる。

 同僚医師の甥で40代・基礎疾患はなかったが肺は手の施しようがなく、血中酸素飽和度は90%。すぐに呼吸器内科の集中治療室(ICU)に移し、16日の患者と同様に処置。