韓国のソウル駅で、北朝鮮の金正恩委員長に関する報道番組を見る人々(2020年4月21日、写真:AP/アフロ)

(黒井 文太郎:軍事ジャーナリスト)

 金正恩委員長の健康状態について虚実情報が飛び交っているが、仮に死亡もしくは植物状態になった場合、後継者は誰になるのか?

 金日成(キム・イルソン)、金正日(キム・ジョンイル)、金正恩(キム・ジョンウン)と、つまり息子・孫へと世襲が続いたことからすれば、やはり血族の可能性がいちばん高い。北朝鮮の体制は事実上、王朝だからだ。

トップになる可能性が高い金与正

 独裁者は、いずれは訪れる自身の死に備え、自身の家族が次の独裁者に虐げられない道筋を残さねばならない。それには自分の家族に権力を世襲させるのがいちばん安心だ。独裁者は通常、権力があるうちにその布石を打ち、盤石にするために世襲を守護する腹心の部下を高位ポストに配置する。

 まだ子供が幼い金正恩とすれば、最も信頼する家族は、妹の金与正(キム・ヨジョン)だろう。しかし、彼女はまだ若く、政治経験も浅い。しかも家父長制的な意識が根強い北朝鮮では、過去に例のない女性のトップということになる。そこは世襲のためには障害だ。

ベトナム・ハノイのホー・チ・ミン廟での式典に出席した北朝鮮の金与正氏(2019年3月2日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 しかし、彼女以外には、金正恩が信頼する一族の人間がいない。次兄の正哲は、一切消息が不明だが、それはつまり金正恩がそうさせているからだ。兄弟の今の関係性は不明だが、いずれにせよ公的立場が皆無の人間がいきなり後継は難しいだろう。

 一族では他に、金正日の異母弟すなわち金正恩の叔父にあたる金平一がいるが、それも金正恩からすれば警戒対象だ。金平一は金正日から遠ざけられて1979年以降、東欧の大使を歴任していたが、2019年に40年ぶりに帰国した。しかし、この人物に不用意に近づくことは北朝鮮では粛清の対象になりかねないので、彼を担ぐ勢力が台頭するということも考えにくい。