3月16日、大統領府でビジネス界のトップ、労働界のリーダーらと新型コロナ対策について話し合った文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 中国・武漢から広がり、世界中を混乱に陥れている新型コロナウイルス禍だが、日本と韓国では、新型コロナの新たな感染者数は抑制的に推移するようになり、両国の国内的関心は経済問題に向かい始めている。

 これまでは、「経済を多少犠牲にしても、感染者の広がりを抑えるのを優先させるべき」との考えが支配的であったが、最近では、「新型コロナを完全に撲滅させることは困難なので、いかに広がりを抑えつつ経済活動を再開していくか」に関心が移りつつある。

 特に韓国では、大邱における集団感染は一段落し始めているのだが、経済の混乱が極めて深刻な状況になりつつある。もともと文政権になってからの経済政策失敗により経済界が疲弊していたが、そこに新型コロナによるダメージが畳みかけて来た。新型コロナによって受けるダメージは日本よりも甚大なものになるだろう。

 その現状を、主として中央日報・韓国経済新聞の記事をベースに、過去の経済危機とも比較しつつ分析してみたい。

「経済的死亡が恐ろしい」

 中央日報に「経済的死亡がもっと恐ろしいかもしれない」というコラムが掲載された。

 1997年のIMF危機当時、金融監督委員長に任命され、企業構造調整を指揮した李憲宰元経済副首相は、危機解決者と韓国では呼ばれている。その李副首相は2012年に回顧録で「持たない人に危機はさらに苛酷なものだ。家を売り車を売り危機をどうにか耐え忍んでみたら、待っているのはさらに貧しくなった暮らしだ」と当時の様子を記しているが、今回の危機を受け、改めて中央日報に対し「医学的死亡(medical death)だけが深刻なのではない。経済的死亡(economic death)が始まるだろう」と述べ、「数十万人が崖っぷちに追いやられるだろう」との警告を発したというのだ。