(写真:ZUMA Press/アフロ)

(山田 敏弘:国際ジャーナリスト)

 2020年1月29日、ブルームバーグ通信はイギリスのこんなニュースを報じた。

<ジョンソン英首相は中国の華為技術(ファーウェイ)に対し、次世代通信規格「5G」移動通信ネットワークの一部で開発への参画を認めた。ファーウェイについて繰り返し警告を発するトランプ米大統領との対立へと、火種を抱えた。

 英政府はファーウェイなど高リスク企業を5Gネットワークの最も重要な基幹部分から排除するが、高速通信の展開に欠かせないアンテナや基地局などの機器については納入を認めると発表した>

 もちろん通信データが行き交うようなコアな部分でファーウェイ製の機器を使うようなことはしないが、それ以外のアンテナ部分など、要するに「ネジ」のような部品なら使ってもいいだろう、というのがイギリスの主張である。

 これについてファーウェイは「安心した」とし、「勝利宣言」のような発表をしているが、そのように受け止めてしまうと実態を見誤ってしまう。イギリスの言い分を正しく理解するなら、「コアな部分にファーウェイの製品を入れるのは危ない」と言っているのである。だからこそイギリス政府は、ファーウェイ製品の使用は市場占有率35%以下に限定するとしているし、事実、今回の英政府の発表を受け、英携帯大手ボーダフォンは通信網の中核部分からのファーウェイ排除を発表している。

 この顛末を見て、筆者は暗澹たる気持ちになった。ただそれは、イギリスがファーウェイの一部容認に踏み切ったからではない。イギリスと比較してみると、日本の対応のお粗末さがありありと浮かび上がってきたからだ。

インテリジェンスが生む日本とイギリスの差

 アメリカが同盟国に対して、安全保障上問題のあるファーウェイ製品を排除しろと要請したことは周知の通りである。ただファーウェイを排除することにより、どの国も、国内経済に悪影響が及ぶのは間違いない。これまで安価に手に入れていた製品を禁止して、コストが高い代替品に替える必要があるのだから当然だ。それによって失業者なども生まれるかもしれない。

 それでも、日本はアメリカに一切反論することなくふたつ返事で応じた。だが、イギリスは違った。自分たちの主張をはっきりとアメリカに示している。ファーウェイ、つまりそのバックに控える中国との関係を考慮し、「“ネジ”くらいなら容認してくれないと自国民を守れない」と。

 メディアの報道によれば、ジョンソン首相の決定にアメリカのドナルド・トランプ大統領は激怒しているという。ただトランプの激怒が事実であっても何も変わらない。というよりも、ジョンソンに対し、そして他の同盟国に対し、「俺は起こっているんだぞ」とアピールしておきたいというトランプの意向が、こうした報道となって伝えられているとみる方が自然だ。トランプとしても、ジョンソンにだけ甘い顔するわけにはいかないのだ。

 ジョンソンにしても、トランプがそれくらいのポーズをとることくらいは織り込み済み(中東和平など他の分野で妥協する姿勢を見せるとの見方もある)。それを見越したうえで、中国へのメッセージの意味も含め、「国益のために、そこは譲れない」と言っているのだ。

 日本とイギリスの対応は、天と地ほど違う。なぜそうした差が生まれてしまうのか。理由は「インテリジェンス」にある。