彦根城(滋賀県)天守 撮影/西股 総生

(城郭・戦国史研究家:西股 総生)

天守を見分ける「破風」の種類

 天守を見ていると、屋根に三角の飾り板のようなパーツがはめ込まれている箇所があります。これは、破風(はふ)と呼ばれるものです。破風の種類とレイアウトは、天守を見分ける第四のポイントになります。

 まず、破風にはいくつか種類があります。小さな三角のタイプが千鳥破風(ちどりはふ)。屋根の端から端まである大きな三角は入母屋破風(いりもやはふ)。への字形をした切妻破風(きりづまはふ)。曲線タイプは唐破風(からはふ)といいます。

写真1:松本城(長野県)天守。千鳥破風と唐破風を上手にレイアウトして、デザイン上のバランスをとっている。撮影/西股 総生
写真2:姫路城(兵庫県)天守。側面には、センターラインに入母屋破風と唐破風を交互にレイアウト。高さをうまく演出している。撮影/西股 総生
写真3:犬山城(愛知県)天守。向かって右の突き出した部分を、入母屋破風ではなく切妻破風としている。あえて破調の美を狙うセンスに、織部焼に通じるものを感じる。撮影/西股 総生

 用語が立て続けに出てきましたが、無理に暗記しなくても、少しずつ覚えていけば大丈夫。それより、破風の原理をまず理解しましょう。というのも、破風には天守という建物の誕生にまつわる秘密が隠されているからです。

屋根を重ねた「望楼型天守」

 気づいた人もいるかもしれませんが、入母屋と切妻は屋根の形の種類です。つまり、破風とはもともと、屋根の両端の部分なのです。というのも、もともと日本では、高層建築を作る技術が発達していませんでした。お寺の五重塔は、外見は5重ですが、内部は吹き抜けで5階建てではありません。城流にいえば、5重1階です。

写真4:備中国分寺(岡山県)の五重塔。外見は5重だが内部は吹き抜けで、天守とは構造がまるで違う。高欄・廻縁を装飾に使うのは、寺院建築がヒントのようだ。撮影/西股 総生

 戦国時代の後半に、城の中心に高層の頑丈な建物を作ったらスゴイぞ、と思い立った人がいました。とはいえ、いつ敵が攻めてくるともしれない乱世のこと、新技術を開発している余裕なんてありません。既存の技術を応用するしかないのです。そこで、1階建てか2階建ての建物を重ねて、高く積み上げることにしました。入母屋破風は、その名残です。

写真5:秋月(福岡県)の城下町にて。向かって左が入母屋屋根、右が切妻屋根だ。破風はもともと、屋根の断面をふさぐための構造である。撮影/西股 総生

 犬山城の天守を正面から見ると、何となく小顔な感じがします。これは、御殿のような大きな入母屋の建物の上に、小さな物見櫓を載せて作ったからです。このタイプを、望楼型(ぼうろうがた)天守といいます。望楼型は、屋根を重ねて建てた天守です。

写真6:真っ正面から見た犬山城天守。唐破風は、後から追加されたことがわかっている。これがないと、ネクタイをはずしたオジサンみたいで、だらしない。撮影/西股 総生

 ただ、天守は大きな建物なので、そのままだとデザイン的に間延びしてしまいます。そこで、屋根の飾りとして千鳥破風、切妻破風、唐破風を付けるようになりました。犬山城の場合、小顔の下の首元がスカスカではカッコ悪いので、唐破風で決めています。