河井克行前法相(写真:ロイター/アフロ)

(舛添 要一:国際政治学者)

 1月15日、広島地検は、公職選挙法違反の疑いで、河井案里参議院議員と、その関係先として夫の河井克行前法相の事務所を捜索した。これを受けて、同日夜、両人は、それぞれ記者団の取材に応じ、陳謝したが、離党や議員辞職については否定した。最終的には、検察が捜査し、裁判で結論が出るが、選挙には金がかかることを示すエピソードでもある。

選挙という仕組みは平和や福祉に貢献しているのだろうか

「政治家の誕生」という視点から日本の政治を考えると、選挙に必要なものとして、「ジバン(地盤)、カンバン(看板)、カバン(鞄)」という「三バン」が挙げられる。

 第一の地盤については、親の地盤を引き継ぐ世襲候補もいれば、全く縁もゆかりもない地に降り立つ落下傘候補もいる。安倍首相のような前者が圧倒的に有利であることは間違いない。地盤のない候補者は、選挙区内をくまなく歩き回り、自ら地盤を築いていくしかない。

 第二の看板というのは、いかに顔が売れているかということ、つまり知名度である。この点ではテレビなどでの露出の多いタレント候補に分がある。無党派層を獲得するには、マスメディアを利用して知名度を上げる戦略が有効である。

 第三の鞄は、鞄の中身のカネ、つまり選挙資金である。かつて金権政治が批判されたために、カネのかからない選挙を実現させるためのルールが積み重ねられており、一定の得票をあげれば公費で選挙を賄えるようになっているが、供託金も高額である。現実には出費は馬鹿にならず、政党の丸抱えでないかぎり、裕福でないと立候補は難しい。

 私は、看板(知名度)のおかげで、地盤もカネもなかったが、当選することができた。それでも、選挙資金を捻出するには苦労したものである。

 アメリカのように寄付の文化が根付いているところでは、政策に共鳴する人々からの資金援助やボランティア活動が期待できるが、日本ではさほど期待できない。しかも、戸別訪問が禁止されているので、街宣車による宣伝活動、街頭演説、個人集会が中心とならざるをえない。そこで、優秀なウグイス嬢の需要が高まり、高額な日当を支払わないと調達できなくなっているのである。