2007年、ドイツのミュンヘンで開かれた安全保障国際会議において、ロシアのプーチン大統領(当時)が激しい米国批判の演説をした。それ以来、米ロ関係は急速に悪化の道をたどってきた。

 だが、今年2月7日からやはりミュンヘンで開かれた安全保障会議では、関係修復の兆しが見られた。特に、米国のバイデン副大統領とロシアのイワノフ副首相との会談は、両国の関係を好転させたのではないかと高い評価が寄せられている。

 世界経済が危機に瀕している今、様々な分野で米ロが協力することは不可欠である。判断は時期尚早かもしれないが、「仲直り」は静かに進みつつあり、これは世界にとって望ましいことである。この仲直りの背景を分析してみよう。

世界の多極性を認めるようになった米国

 深刻な経済危機に陥っている米国は、今や過度な負担となっているブッシュ外交の負の遺産を速やかに片づけようとしている。まずはイラン、アフガニスタン、パキスタンの問題が最優先課題だが、ロシアとの関係を白紙(「リセットボタンを押す」)に戻すことも外交の重要な課題である。

 その動きの根底には、新しい思想がある。それは「思想」を拒否する哲学である。

 ジョーンズ大統領補佐官は今回の安全保障会議で、「大統領は少なくとも現実主義者である」と述べた。加えて、「世界は大きく変化しており、米国も変わらなければならない。・・・世界は多極的な場所であることを明確に認めなければならない」と、オバマ外交の基本姿勢を説明していた。

 ブッシュ外交は世界の多極性を認めず、「世界はすべて米国流に変わるべきだ」というネオコンの主張に染まっていた。その思想との決別である。

 他方、昔から世界の「多極性」と「現実主義」を訴えていたロシアは、両国の関係を「白紙から」再出発させようという米国の姿勢を、好意的に受け止めているようだ。

 その背景には、これから本格化するであろうロシアの経済危機と社会不安をどう乗り越えたらいいのかという不安がある。

中欧へのMDシステム配備を巡って、お互いが歩み寄り

 米ロの新しい「現実主義」は、両国が抱える問題をどのように進展させられるのだろうか。今、最も大きな問題は、米国がチェコやポーランドなどの中央ヨーロッパに配備しようと計画している「ミサイル防衛(MD)施設」だろう。

 ブッシュ政権が打ち立てたこの計画に対し、「ロシア包囲網を作っている」としてロシアは猛反発している。これに対して米国は、イランのミサイルの脅威に対処するためだと主張。バイデン副大統領は、「イランの攻撃能力の向上に対応する」ために、引き続きMDシステムの展開を継続すると言っていた。