(篠原 信:農業研究者)

「せめて100億は売り上げが見込めないと、うちみたいなところ(大企業)は新規事業としてもペイしない」という言葉を、くしくも全然分野の異なる大企業から聞かされた。いずれも1兆円を超える大企業。

 私自身がそうした言葉に直面したのは3社だけだったが、ツイッターでそのことをつぶやくと、次から次へと「うちも」という回答が帰ってきた。むろん、ツイッターは身分証明がないからあてにはできないが、どうも日本の大企業で、新規事業でも「100億円」という数字は、不思議と共通して語られているらしい。

事業規模など事前に予測できない

 100億円という数字の根拠は、分からなくもない。独立した事業部を形成するには、それくらいの事業規模がないといけないとか、1兆円も売り上げている企業なら大量の雇用を抱えているわけで、その事業規模を維持するには、10億円程度のチマチマした仕事なんかやってられるか!とか、いくらでも理由を思い浮かべることはできる。

 が、それは会社側の都合であって、新しい事業を育てるという視点に立てば、あまり役に立つ思考ではない。

 ネズミの赤ちゃんは小さく、クジラの赤ちゃんはずっと大きい。けれど、ネズミもクジラも、もとはといえばたった一個の小さな卵細胞。卵細胞の大きさに差はない。もし卵細胞だけ見せられて、どのくらいの大きさの生物に育つか見極められるか、といったら、ほとんどの人は無理だろう。

 それは新規事業も一緒だ。それが大きく育つか、小さいサイズに留まるかは、事前には予測しにくい。そんな商品が大きく育つとは思わなかった、という事例も多いし、もっと大きく育つと思われていたのにたいしたことなかったり。事前に事業規模を予測するのは大変難しい、というか、無理!というのは、誰しも分かっていることだろう。