危機「クライシス」の語源は、ギリシャ語のカイロスに由来し、神との出会いや運命の時を意味する。

コロンビアの首都ボゴタ
今、ここ!

 中米を旅する旅行者にとってコロンビアとベネズエラは鬼門の1つである。日本の旅行ガイドブックにはコロンビアの首都、ボゴタの地図が掲載されていない。「ここに行くな、という外務省の指導によるものではないか」などの憶測を呼んでいる。

 また、ベネズエラは殺人、強盗、誘拐が頻発し、中南米で一番危険な国と言われている。ギアナ高地やカリブ海に浮かぶ秘宝、マルガリータ島など、世界でも指折りの観光スポットがありながら、避ける旅人は多い。

 ボゴタの夜は寒い。南北に連なるアンデス山脈の北の東側、標高2600メートルにあるこの町では物を強引に売りつけたり、ホテルやツアーなどに勧誘する人が見受けられない。基本的に親切なのだが、他の国よりも旅行者に対して静かで無関心のようだ。

この辺りは外務省が「渡航の是非を検討」と注意喚起を促しているエリアだ。だが、注意喚起が解けるのを待っていては、生涯、このエリアを旅することはできないだろう。

 確かに、コロンビアのククタからベネズエラのサンクリストバルを抜けるルートでは2006年に106件もの誘拐事件が発生しており、警戒が必要だ。しかし、たとえ警戒していても、ゲリラに遭遇したらこちらがショットガンでも持っていない限り、運を天に任せるしかない。

コロンビアからベネズエラへ

 コロンビアからベネズエラに抜けるため、ボゴタから、ベネズエラとの国境の町ククタ行きのバスに乗車した。

コロンビアの首都、ボゴタ

 このバスは40人乗りのリムジンバスだが、ターミナルを発車した時、乗客はわずか3人。「これで採算がとれるのか?」と心配になってしまう。

 バスは発車した後、市内のローカル停留所をぐるぐると周り、前日に私の買った金額よりもはるかに安い金額でチケット叩き売りをして、乗客を勧誘している。歩合制なのか、社員が総出で競うようにチケットを売っている。なかなかバスが町を出ないので私は苛立った。

 出発予定時刻から2時間が経過し、ようやくバスの席が埋まった。ボゴタは車が多く、市内は大渋滞のためなかなか進まなかったが、郊外に出ると今度は打って変わって、ダートの道を猛スピードで走り出した。この勢いでカーブを曲がり切らなければ谷底だな、というくらいのラリーさながらのハンドルさばきは見事という他はない。

 バスは田舎町を経由しながら夜通し走り続けた。数時間走ると集落に停車する。集落に出入りする道が1本しかないためか、コロンビアの田舎の治安は大変良い。人々も素朴で、中世ヨーロッパの田舎を思わせるようなのどかな趣きが感じられる。

 国境の町、ククタには明け方に到着した。コロンビアからベネズエラの国境は橋でつながっている。地元の人は国境を自由に行き来しているようだ。

 ここでは入国審査はなく、旅行者は町の警察に行ってパスポートにスタンプをもらう。ここの国境越えの方法はガイドブックに掲載されておらず、旅行者もほとんどいなかったため、正直、かなり心細い思いをした。