北朝鮮が短距離弾道ミサイル発射したことを伝える韓国のテレビニュース(2019年7月25日、写真:AP/アフロ)

(数多 久遠:小説家・軍事評論家)

 7月25日、北朝鮮が再び弾道ミサイルを発射しました。北朝鮮は5月に、ロシアのイスカンデル短距離弾道ミサイルに類似した“イスカンデルもどき”のミサイルを発射しており、7月25日に発射されたのは、それと同じである可能性が高いとみられます。韓国軍の発表では600キロメートル飛行したとされ(当初は690キロメートルと発表)、新型あるいは“イスカンデルもどき”改造型の可能性も考えられます。

 なお、7月31日に発射されたと報じられた飛翔体は、北朝鮮の朝鮮中央放送によると新型の多連装ロケットだった模様であり、イスカンデルもどきとは明らかに別のものです。

 7月25日のイスカンデルもどき、正式には「KN-23」と呼ばれるミサイルの発射に対して、防衛省は、領海や排他的経済水域(EEZ)に到達していないことから、「我が国の安全保障にただちに影響を与えるようなものではない」とコメントしました。そして発射から4日後の7月29日になって、岩屋防衛大臣がようやく「わが国の国防という観点から言えば脅威に違いない」と非難しました。

 しかし、長らく弾道ミサイル防衛に関わってきた者の目から見ると、このコメントは、オブラートが厚すぎます。確かにただちに脅威とは言えないものの、このイスカンデルもどきは、我が国の弾道ミサイル防衛に重大な難題を突き付けるものなのです。

 それは、単に最大射程で撃てば我が国にも届くというレベルに留まりません。その難題とは、北朝鮮がこのイスカンデルもどきと関連技術の開発を進めた場合、「日本政府はイージスアショアの配備を急ぐべき」と考えられる一方で、「イージスアショアの配備を見直すべき」とも考えられ、この難題が二律背反であるということなのです。

 以下、北朝鮮が開発を進める“イスカンデルもどき”ミサイルに焦点を当てて、日本が対応を検討する際に直面する二律背反の命題を検証してみます。

発射前の破壊は極めて困難

 まず、このイスカンデルもどきが「イージスアショアの配備を急ぐべき」という結論を導き出す理由について検証します。

 このイスカンデルもどきは「ディプレスト弾道」と呼ばれる、野球で言うライナーのような低い弾道(最大射高50キロ)で発射されました。このミサイルを、角度45度程度の最も遠距離まで到達させることのできる弾道(最小エネルギー弾道)で発射した場合、射程は800キロ以上となる可能性があります。この射程だと、北朝鮮南部から撃てば、東京には到達できないものの、西日本の広い範囲を収めることが可能です。