社風の大きく異なる3社が合併してできた東京海上日動システムズ。この会社が合併の混乱を乗り切って大躍進を始めた原動力は、社員同士のコミュニケーションを徹底的に良くしたことと、フラット化した組織を追求したことだった(第1回第2回参照)。

能力開発で最も大切なこと

 お互いに助け合い学び合うという人材育成も、チームにおける重要な課題。同社では、人事制度は育成を主眼としている。例えば新入社員に対する「アドバイザー制度」。

 新入社員一人ひとりに、配属された部署の5~10年目の先輩が選任され、1年間、実践の中で業務や社会人として基礎を学ぶ。

 また、中堅となりSD(ソリューションデザイナ)に昇格した社員に対しては、「メンター制度」がある。他部署のSP(ソリューションプロデューサ)がメンターとなり、業務からプライベートなことまで様々な相談に乗る。メンターは3カ月ごとに代わり、1年間に3人のSPから色々な考え方を学ぶことができる。

 さらに、「キャリアサポーター」という役割の社員が各部署に2人ずつ配置され、社員のキャリアに関する相談に応じたり、人事部が考えた人事施策を、それぞれの部署の状況に合わせて推進する役目を担う。いわゆるOJTがきめ細かく設計されているのだ。

 部長職や課長職はSPから選任されるが、役職手当はつかない。それというのも、人材育成は管理職層に求められるコンピテンシーの1要素であり、チームで仕事を進めるうえでは、「ここからは育成」と切り離すことができない要素だからだ。

 現在SPで管理職の立場にあり、キャリアサポーターも務める廣野利一氏は、管理職に選任された当時のことを次のように振り返る。

 「当初は、プロジェクトを進めるうえで全体を統括する役割の人間が必要になったから管理職になったというだけで、単に自分の権限が増え、そこに育成という役目がついた、という感覚でした。でも実際やってみたら、人を育てることの面白さに気づいたんです」

 役職だからという組織運営上の義務ではなく、社員が社員に関心を持つことによって育成していくということが、同社の人事制度の要。そのためには、育成する側のサポートにも手抜かりがない。

 例えばキャリアサポーターは、人事部と連携して、定例会や分科会活動で意見交換や情報共有を行うなどしている。

 こうした、コンピテンシーによる明確な能力測定の基準を持ちつつ、現場と人事によって育成を実践している姿は、かつて日本企業におけるモノづくりの技術進展を促し、強いチームと育成のあり方を形成したような、家族主義経営の新しい形と言うことができるかもしれない。横塚裕志社長もこう述べている。