トルコ系のウイグル人が多く住む中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区。中国による直接支配の歴史が浅い本地域では、独立や自治獲得を望む声が根強い。しかし、中国政府は当然それを許さず、厳しい弾圧を加えている。ジャーナリスト・福島香織氏が目の当たりにした民族迫害の過酷な実態とは。(JBpress)

(※)本稿は『ウイグル人に何が起きているのか 民族迫害の起源と現在』(福島香織著、PHP研究所)の一部を抜粋・再編集したものです。

テロの下見と誤認される

 2013年7月、私が山東省のとある工場地帯の環境汚染問題を取材していたとき、地元警察に身柄を一時拘束されて尋問を受けたことがある。環境汚染問題の取材が原因ではなく、まったく意外な理由だった。

 私はウイグル人の“テロリスト”と間違われたのだった。地下水汚染の原因となっている、と地元農民から批判を受けていた化学工場の周りをタクシーに乗ってこっそり写真を撮っていたときに、交通整理の警官に「お前は何をしている?」と見とがめられた。

 私は中国語の分からない日本人観光客のふりを通そうと、日本語で「道に迷っちゃって」みたいな何か適当なことをいってみた。すると、警官に「お前、さてはウイグル族だな!」と言いがかりをつけられた。

 さらに、その警官は「おれはもともと新疆での兵役経験があるから、ウイグル語が分かるんだ」と同僚に訴えて、電話で上司らしき相手に「ウイグル族のテロリストを捕まえました! 化学工場の周りをうろうろしていました。テロの下見ではないでしょうか」などと報告していた。

 そのとき、ようやく気が付いたのだ。その日は7月4日。2009年7月5日にウルムチで発生したウイグル人の大規模デモとその武力鎮圧である「ウルムチ騒乱」(7・5事件)4周年前日ということで、全国でウイグル人の抗議活動に対する厳戒態勢が敷かれていたのだ。