「標準化」の観点からこのコラムを書くのも4度目になる。私の担当としては今回が最後になるので、これまで3回(「技術進歩を止めると市場が開ける?」「イノベーションの成否を左右する『測る』という行為」「深く静かにインターフェース標準を握れ」)のまとめの意味も込め、標準化とイノベーションの関係を整理してみたい。

 イノベーションは、ある日突然起こるものではない。研究開発の成果を市場に投入し、それが普及することで社会生活が変わっていってこそイノベーションが起こったと言える。そして、その過程では様々な標準化が、そのイノベーションに影響を与えている。

 では、どのような標準化をいつ行えば、自分にとって有利なイノベーションを引き起こすことができるであろうか。このような観点から標準化を考えることが「標準化戦略」だ。

過去の標準化に目を向ける

 どのような研究開発も、全くの白地から出発するわけではない。先人の多くの研究開発成果があり、特許があり、そして製品がある。

 しかし、まだ実現されていないけれど、社会が求めている技術・製品も多くある。研究開発に携わるものであれば、皆、先人の業績をつぶさに精査し、自らが行うべき領域はどこかを見つけ出しているだろう。

 その時に、ぜひ、過去に行われた「標準化」にも目を向けてほしい。様々な標準化が必ず行われているはずだ。

 例えば標準化されたインターフェースを利用すれば市場参入は容易だが、画期的製品の実現にはそれが障害になるだろう。既存の試験方法標準を利用して新技術の評価は可能だが、本当の良さはそこからは見えないかもしれない。技術の未熟さに対応して整備された安全規制などが、新技術の利用範囲を狭める可能性もある。

 画期的な製品の実現を阻害する様々な制約条件の中には、技術的限界以外に、標準化によって人為的に作られた制約条件が潜んでいる。まずは、そのことは認識して研究開発にとりかかろう。

「命名」が左右する自らの研究開発ポジション

 研究開発が始まると、最初に行われる標準化がある。それは、新たな技術・物・現象・方法などの「命名」だ。既存の単語で標準できない新しいものを生み出した時は、新しい名前が付けられる。この名前は、デファクト標準として、その後も永遠に生き続けることになる。