5月9日、韓国KBSテレビに生出演した文在寅大統領の様子を、ソウル駅に設置されたテレビ画面で見守る市民(写真:AP/アフロ)

(武藤正敏・元在韓国特命全権大使)

 5月10日、文在寅大統領は就任2周年を迎えた。これを機に韓国でも過去2年間の文政権の実績を分析する報道が数多く見られる。そこで、文大統領の「対北朝鮮政策の停滞」、「米国との関係悪化」、「日本との関係の崩壊」はすでに知られているところではあるが、それをもたらした韓国外交の体質、韓国国民の受け止め方を分析し、これにいかに対処すべきか考えてみたい。

文大統領の外交は「落第点」

 朝鮮日報は、外交・北朝鮮問題の専門家にアンケートを求め、文外交の2年を採点したところ、4点満点で0.99点と落第点であった。朝鮮日報は、保守系の新聞であり、このところ文政権と激しく対立していることから、同紙の選んだ専門家の評価が厳しいのはある意味で当然ではあるが、この専門家の人選を見ると、筆者も良く知るその道の権威である。研究者、国家情報院元幹部、外交部で北朝鮮核問題を担当した元幹部等見識のある人々を幅広く網羅しており、客観的な評価と言えるのではないか。そうした、多くの専門家が外交安全保障の分野で指摘したのは、「少しでも現実・実用主義的なアプローチに従い、(政策を)全面的に見直すか補完すべきである」ということである。

 ちなみに、一般の人々はどう見ているのか。世論調査では肯定的評価は過去1年の間に北朝鮮政策が83%から45%に、外交政策でも74%から45%に大幅に下落している。特に北朝鮮政策は、昨年1年間で南北首脳会談が3回行われ、緊張緩和が進んだ時期である。そうした中での肯定的評価の半減は、国民一般も文大統領の対北朝鮮外交が希望通り進んでいないと評価していることを示しているのかも知れない。

余りにも希望的思考で組み立てられた対北朝鮮政策

 まず、専門家の見解を見たい。外交部の中で、革新陣営にも理解のあったはずの千英宇元大統領府外交安保首席秘書官(故盧武鉉大統領当時の北朝鮮問題交渉担当責任者)は、「韓国は米国の同盟国であって、米朝の間で仲介役を果たすこと自体が不自然だ。促進者としての役割も双方を動かす力がある場合には可能だが、韓国政府にそんな力はない」と文政権の政策を批判している。

 一般国民の評価は、政策の過程よりも、その結果を見てのものであろう。文政権は米朝双方から仲介者の役割を否定されている。特に北朝鮮は、韓国を米国の同盟者であって、仲介者ではないと不満をあらわにしている。金正恩国務委員長は、韓国が、米国との橋渡しをできないばかりか、米朝交渉にあたり、米国の姿勢を誤って伝えたことが、交渉物別れの大きな要因になったとして文大統領の仲介に見切りをつけたのではないか。