彼らは、外国人である私にも、周囲に人がいないと金正恩のことをボロクソ言う。『トランプに会っても(2月27日、28日)、プーチンに会っても(4月25日)、何も変わっていないではないか』と。『最高人民会議(4月11日)で強調した経済建設は、絵に描いた餅ではないか』と。このように若い世代が最高指導者を貶めることは、金日成時代と金正日時代にはなかった」

 一言で言うと、2017年に強化された国連の経済制裁が、てきめんに効いているのだ。北朝鮮は「兵糧攻め」に遭って、もはや「陥落寸前」の状態だ。この中国人は、こう結論づけた。

「外国からの物資は、2016年までと比較して、わずか3%しか入っていないと聞いた。あと半年か1年は持つかもしれないが、それ以上は保証できない」

姿を消した「4人の側近」

 こうした経済悪化に加えて、私にはもう一つ、最近の北朝鮮で気になることがある。それは、金正恩委員長の周辺から、「4人の側近」が消えてしまったことだ。

 1人目は、昨年から「金委員長の最側近」と言われてきた金英哲である。朝鮮労働党副委員長と統一戦線部長を務め、昨年6月にシンガポールで開かれたトランプ大統領との米朝首脳会談、及び今年2月にハノイで行われた2回目の米朝首脳会談では、いずれも金正恩委員長の脇にピタリと寄り添っていた。

米朝高官協議延期、北朝鮮の要請だった 韓国外相

昨年7月に平壌で会談したマイク・ポンペオ米国務長官と北朝鮮の金英哲・朝鮮労働党副委員長(2018年7月7日撮影、資料写真)。(c)Andrew Harnik / POOL / AFP 〔AFPBB News

 だがいまや、忽然と消えてしまったのだ。少なくとも統一戦線部長は、最高人民会議が開かれた4月中旬以降、それまで無名だった張金哲朝鮮アジア太平洋平和委員会委員に代わっている。

 私は、2月28日の昼前、トランプ・金正恩会談が「決裂」した会議室から出てきた金英哲副委員長の呆然自失とした表情が、忘れられない。テレビ画面に映った金副委員長は、首から上はすでに死人のような状態だったのだ。

 だがそれでも、ベトナムから帰国後の金英哲が、同じナンバー2であっても、かつての李英浩総参謀長(2012年7月に処刑)や、張成沢党行政部長(2013年12月に処刑)のように辱められたとは思わない。1946年生まれの金英哲は、朝鮮人民軍が輩出した最大のエリート軍人の1人であり、彼を処刑することによる朝鮮人民軍の動揺は、計り知れないからだ。だから、そっと引退させたのではないか。