(姫田 小夏:ジャーナリスト)

 中国・広東省の広州市で今、工場の売却が急増している。広州では数年前から人件費の高騰が製造業界を苦しめていた。これに米中貿易戦争が追い打ちをかけている。米中のつばぜり合いの長期化を懸念する経営者たちが工場の移転を急いでいるのだ。

 広州近辺の製造業者がアクセスする専門サイトがある。設備や原料の調達、製品の販売や輸送、人材の募集、さらには工場の転売情報もキャッチできる便利なサイトだ。

 筆者が5月初めにサイトを見たとき、縫製工場は20件程度の転売情報がアップロードされていた。だが、5月6日にトランプ政権が中国製品の関税を25%に引き上げると報じられると、一気に数が増え、50件を上回った。こうしたサイトはほかにも無数に存在するので、恐らく膨大な数の工場が売りに出されているに違いない。

大陸の台湾企業が直面する試練

 広州一帯には台湾資本の中小企業の工場も多い。それらは家具や電子製品、縫製・アパレル、皮革製品などを製造する典型的な労働集約型の輸出企業であり、粗利は低い。関税が25%に引き上げられれば経営が大打撃を受けることは間違いない。

 台湾系工場の経営者たちは、すでに昨年(2018年)秋頃から東南アジアへの移転を視野に動き始めていた。台湾の経済誌が報じた、ある家具工場の経営者の移転劇は興味深い。彼は、ベトナムを次なる工場拠点に見込んでいた。だが、ベトナム移転を目論む経営者はもちろん彼一人ではない。暴利を貪ろうとする現地の不動産業者から「工場用地は1億ドルだ」と吹っ掛けられてしまう。