「上半身は人間の女性、下半身は鳥」というセイレーンは、美しい声を持つ海の怪物と伝えられている。セイレーンの歌声を聞いた船乗りは、心を惑わされ、船を難破させてしまう。

 そのことを予言者から教えられていたオデュッセウスは、自分だけはその美しい声を聞きたいと思ったが、航海も無事に進めたい。そこで仲間の水夫たちに命じて、オデュッセウスをマストに縛り付けさせ、彼らには耳に栓をさせた。

 いざセイレーンの住む島に船が近づくと、縛られたままのオデュッセウスはやはりセイレーンの声に心を惑わされ、島に船を着ける様叫んだが、その声が耳に入らない水夫たちは、ひたすら櫓をこぎ続け、船は無事に島を通り過ぎることができた。<ホメーロス『オデュッセイア』第12歌より>

 このホメーロスが描いた物語と同じ状況が、終末期医療の現場で問題になっている。

「安楽死先進国」オランダで初めて減った実施数

 オランダ安楽死審査委員会報告書2018年版がこの4月11日にインターネット上に掲載された。安楽死法施行以来、初めて、昨年11月に、2016年度の安楽死のケース(2016-85)が検察により訴追されたというだけに、オランダで、安楽死法および、一昨年提案された「人生終焉の法」の動きはどうなるのか私は関心があった。

 安楽死の数は2002年の法施行以来、毎年増加の一途をたどっていたが、2018年になると、2017年の6585件から、6126件へと減少した。中身を見てみると、神経難病患者の安楽死の数だけは増加したが、がんを始め、その他の症状を抱える患者の安楽死は減少した。特に、これまで高い伸び率を示していた認知症(169件から146件)、精神疾患(83件から67件)、複合老人性疾患(293件から205件)で減少が顕著だった。安楽死クリニックの安楽死実施件数も751件から726件へと減少した。