オランダと同じ2002年に安楽死法が施行されたベルギーでは、相変わらず2018年度も増加(2309件から2357件へ)しているのに、オランダの2018年度のこの減少は何によるのだろうか。「検察による告訴」という事態を受けて、安楽死の流れに、ひいては、一昨年起こった「人生終焉の法」 の動きに、ブレーキがかかったとみることができるのではないだろうか。

参考:許されるのか?「人生に疲れたから安楽死」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53441

 おりしも日本では、東京の福生病院での、「透析中止事件」が問題となっている最中である。医師が患者の生命の終結を意図的にもたらす「安楽死」と、治療の中止・差し控えの結果患者が死に至る「尊厳死」とでは、死の場面に相違はあるものの、終末期の意思決定について考えるための参考になるのではないかと思い、ここで、オランダで始めての安楽死訴追事件について紹介する。

本人への意思確認が不十分なまま「安楽死」

 オランダは2002年の安楽死法施行以降、安楽死法が揺らぐような大きなトラブルなくやってきた。安楽死審査委員会が法律で定められた「要件」に適合していなかったと判断を下したケースは、2017年までの16年間に100件で、期間すべての安楽死数5万5847件の0.18%だった。しかも適合していないとされた案件の多くは、要件の相談医を第三者の医師にではなくて、友人の医師に相談したというような違反で、注意すれば足りるものだった。

 ところが、最近軽微ではすまされない案件が2つでた。そのうちの1件は、2016年に主治医である介護施設の女医が後期認知症で意思表明不可能な74歳の患者に対して、注射で安楽死させたという案件である。

 患者は、まだ判断能力があるとされた初期認知症の時に、「自分が施設に入らなければならなくなったら安楽死させてほしい」と意思表明していた。しかるべき時が来たので医師がその要請に従って、睡眠導入剤としてコーヒーに鎮静剤を混ぜて飲ませ、患者に薬剤を注射しようとした瞬間に問題が起こった。腕に針を刺した際に、患者が手をひっこめるそぶりをしたのだ。手を引っ込めたという行動が、痛みに対してギョッとした反応からのものか、あるいは安楽死の拒否を意味したものなのか、この女医はその点を確認することなく、安楽死を実施した、というケースである。