「自分で考える」材料の与え方

 そう。教え方には「イケア効果」が必要だ。

 まだハイハイしかできない赤ん坊に「走れ!」と命じたってできるはずがない。達成するのに必要な能力や環境が整っていないからだ。

 若者を指導する際、大切なのは、その若者の現状を見極め、「次のステップにこれを選べば、おそらくできるだろう」という目利きをすることだ。ハイハイからつかまり立ち、手放しで立って、一歩を歩き出す。歩いて歩いて、その果てにようやく「走る」がある。ステップアップの順番を飛び越すことはできない。

 指導者は、若者の現在の能力水準を見極め、考える材料を十分に与えた上で、最後の「一押し」を自分で考えてもらうことが大切だ。その若者なら、それだけの材料をそろえれば、自分で答えを導き出せるだろう、というだけの材料をそろえた上で。しかし自分の口でそれを提案してくるのを待つ。本人が混乱しているようなら、考える材料をさらに追加し、しかし本人の答えを待つ。

 若者発した言葉が、たとえ期待するものでなくても落胆せず、面白がる。「なるほど、そういう考え方もできるか。面白いね。ただその場合、こういう問題が考えられるね。だとしたら、他にどういうことが考えられるだろう?」と、本人が勇気を出して発言したことを評価しつつ、ヒントを追加して、思考を促す。意見を言ったことに否定的な反応がなければ、若者は意見を述べることを恐れなくなる。発言をこちらが面白がれば、むしろ自分の頭で考えることが楽しくなる。

 大切なことは、自分で考えることの楽しさを、部下に感じてもらうこと。そのためには、「イケア効果」で、考える材料は十二分に与えつつ、本人の力で道筋をつけられそうな部分を残しておくこと。考える材料は与えても、それをどう料理し、自分の意見へと昇華させるかは、本人にやってもらう。それをやり通したとき、自己効力感が得られ、自分で考えることが楽しくなる。

 指導のコツは、若者が自分だけでは発見できない材料はをこちらで提供しつつ、若者の能力で道筋をつけられることは、若者自身に任せる。そして答えが違っていても、自ら解決しようとした勇気をたたえつつ、不足の材料をさらに追加して、再度、考えてもらう。「イケア効果」が指導では大切だ。

「教えない教え方」というフレーズが独り歩きし、「教えなさ過ぎ」を推奨しているかのように受け止められることは、不本意。「教えない教え方」は「教えない」のでは決してない。イケア効果のように、本人の力で達成可能な条件をそろえた上で、最後の一手を当人の手で実践してもらう、というのが「教えない教え方」のコツだ。

「教えなさ過ぎ」でも「教え過ぎ」でもない、「教えない教え方」を多くの人が習得すれば、能力をひとつずつ、着実に伸ばしていける若者が増えるだろう。ぜひ、両極端に流れず、バランスの取れた指導を、指導者は心がけてほしい。