強襲揚陸艦「ワスプ」に乗り込む在沖海兵隊 (出所:米海軍、U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Daniel Barker)

(北村 淳:軍事社会学者)

 アメリカ海兵隊総司令官ロバート・B・ネラー大将は、先週の憲法記念日(5月3日)、アメリカ連邦議会上院の公聴会で「沖縄に駐留している海兵隊の一部をグアムに移転する現行計画は、再検討する価値がある」と証言した。

ネラー海兵大将の危惧

 ネラー大将は、「再検討の必要あり」と言っても、沖縄からまとまった数(現在のところ4000~5000名程度と言われている)の海兵隊員をグアムに移転させるというアイデアそのものに異論を唱えたわけではない。

 グアムに移転した海兵隊部隊がグアムから作戦出動する際は、兵員だけでなく各種車両などとともに出動することになる。そのときの移動手段となる水陸両用作戦用艦艇を確保する目処が立っていない、という軍事的危惧から、移転計画の再検討を提議したのだ。

 ネラー総司令官は「あくまでも個人的かつ専門家としての意見である」と断った上で発言したのだが、近々退役することになっているため、かねてより計画実施が難航している「グアム移転」に関して、米海兵隊の総責任者として述べておくべき内容を上院公聴会という公の場で語ったものと考えられる。

日本という「打ち出の小槌」

 沖縄の海兵隊普天間基地移設問題とリンクさせる形で日米両政府が合意(2006年5月)した「沖縄の海兵隊の一部をグアムに移転させる」というアイデアは、様々な問題点を抱えているため常に難航している。

 最大の問題点の1つは、沖縄から移転する海兵隊部隊の施設と海兵隊員やその家族のための住居や生活インフラを整備するだけで莫大な予算が必要になることである。オバマ政権下では国防予算が大幅に減額された上、移転先のグアムは恒常的に予算不足に悩んでいる状態のため、とてもアメリカ自身が潤沢な移転費用を捻出することはできない。