実施率の高い施策と「効果アリ」施策は一致しない

 そもそも、「出島」の設置をはじめとするオープンイノベーション施策は、果たしてイノベーション創出に向けた一手として正しいものなのだろうか?

 何をもって「成果」とするかは企業によって異なるため判断が難しいところではあるが、前出の日本生産性本部による調査結果を見ると、出島から得られた成果についての設問に「新規事業を創出した」と回答した企業が15社で最多。続く11社は「まだ成果は出ていない」と答えているものの、3位の「業務の効率化につながった」(9社)、4位の「外部とのネットワークの形成につながった」(8社)との差はわずかであり、「出島」を設置している企業の多くが何らかの効果を感じているようだ。

 また同報告書では出島に限らず、企業が自社でイノベーションを起こすために実施している施策や、効果の高かった施策等に関する調査結果も掲載されている。そちらを見ていくと、「自社でイノベーションを起こす環境づくりを目的として、実施している施策」についての回答は「特別な才能を持った人の中途採用」が60.5%で最多。続く「大学や研究機関との連携やオープンイノベーション」(52.5%)や「他企業との連携やオープンイノベーション」(51.7%)は共に5割を超えており、企業間連携によるオープンイノベーションの重要性が高まっていることが窺える。

 一方で、現在自社で実施していないものも含めて「特に効果が大きい(あるいは効果が大きいと予想される)と評価する施策」についての回答結果を見ると、1位が「他企業との連携やオープンイノベーション」(55.5%)、2位が「特別な才能を持った人の中途採用」(50.8%)とそれぞれ過半数を占める。3位が「大学や研究機関との連携やオープンイノベーション」(37.0%)、4位が「通常の制度とは切り離された特別な報酬体系や評価制度」(33.6%)と続いており、先に挙げた「実際に実施している施策」とはややギャップが生じていることが分かる。特に「通常の制度とは切り離された特別な報酬体系や評価制度」を実際に用意している企業は18.1%であり、効果の評価との差が目立つ。

 加えて、評価も実施率も高い「外部からの人材獲得」の手段(イノベーションを起こすことが期待できる人材を社外から獲得する手段)を見ていくと、実施率が最も高いのは「取引先や銀行からの紹介」で31.9%。続いて2位が「いったん退職してキャリアを積んだ人の再雇用」(26.9%)、3位が「M&A」(21.4%)となっている。

 一方で、実施していない施策も含めて「特に効果が大きい(あるいは効果が大きいと予想される)と評価する施策」についての回答を見ると、1位は「ベンチャー等と他企業との兼業」で33.6%。実際に同施策を実施していると回答したのは14.7%であり、大きなギャップが見られる。また、2位は「M&A」で31.1%(実施率21.4%)、3位は「大学や研究機関との兼業」で20.6%(実施率10.1%)。実施率が最も高かった「取引先や銀行からの紹介」(31.9%)の効果を評価する企業は14.3%に留まっている。

 これらの結果から、大企業は革新的イノベーション創出のための取り組みを進めており、「出島」や外部組織との連携等、オープンイノベーションにまつわる施策への効果を認知している。一方で、効果が高いと評価する施策と実際の取り組みとの間にギャップが生じており、これはイノベーション創出の弊害となっていると考えられるだろう。