このように、10年、40年、1000年単位で見た場合、「令和」の初頭は私たちにとって極めて厳しい時期になるのではないかと思われるのです。

 そういう中でも、日本を希望にあふれた国にしていくためにどんな手を打っていけばよいのか。その方策を考えることが急務になっています。

偏差値教育の外側で育った人材

 私が特に必要と感じている「打ち手」は3つあります。

 当たり前ですが、1つは経済を再活性化させることです。ただ、製造業に過度に依存するモデルでは日本はもう世界の中で勝てません。総じて、かつて世界を席巻した自動車や家電業界に勢いがないのは明白です。日本には、個別に見れば、製造業の中でも素材産業や工作機械といった分野でまだまだ競争力を発揮できますが、中国を筆頭とするアジア勢のキャッチアップには目を見張るものがありますので、製造業をメインとした産業構造のまま日本全体が世界の中で伍していくのは難しいでしょう。

 そこで私は、日本はクリエイティブ産業をこれからの成長ドライバーとしなければならないと思っています。

 こんなことを言うと、「クリエイティブ産業なんて、日本人が最も苦手な分野じゃないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、海外の人々はそうは思っていません。

 少し前になりますが、2012年、ソフトウエアメーカーのアドビシステムズが日米英仏独の5カ国で行ったアンケート調査があります。この調査では上記の5カ国で「一番クリエイティブな国はどこか」という質問をしています。すると、イギリス、ドイツ、フランスでは「日本」と回答した人が最も多く、自分の国を挙げた人数を上回っているのです。

(参考:https://www.adobe.com/aboutadobe/pressroom/pdfs/Adobe_State_of_Create_Global_Benchmark_Study.pdf

 この調査は、「最もクリエイティブな都市は?」という質問もしています。ここでもイギリス、フランス、ドイツは、「東京」と答える人が最も多く、2位がそれぞれ自国の都市を挙げています。

 ちなみにアメリカと日本は、最もクリエイティブな国では「アメリカ」、都市では「ニューヨーク」と回答した人が最も多いのですが、2位はそれぞれ「日本」と「東京」でした。

 このように、ヨーロッパの人々は日本や東京を世界一クリエイティブな場所だと思っていて、アメリカだって高評価をしてくれています。

 ではクリエイティブな産業というのは具体的にはどういうものか。私が特に「日本に競争力がある」と思って注目しているのは、美容や理容、ネイルアートのような「美」に関わる産業、あるいは建築、映画・小説・アニメーション、そして「食」の分野です。

 六本木に、メイ牛山さんが学長をしていた「ハリウッド美容専門学校」があります。前身のハリウッド美容講習所は大正時代の創設という老舗の美容専門学校で、現在、中国などからの多数の留学生が勉強をしにやってきています。そうした留学経験者の中には、中国に帰って、巨大美容室チェーンを展開している人もいるそうです。それくらい、海外でも「高度な技術・ノウハウが学べる学校」として名が通っているのです。

 ハーバードと東大の両方に合格した外国人が、わざわざ東大に留学するかと言えば、その可能性は低いかもしれませんが、ニューヨークの美容学校と東京の美容学校の両方に合格した人ならば、東京の学校を選ぶ人も相当な割合になると思います。美容の世界で、日本の国際競争力は高いのです。

 建築の世界でも日本人の才能が世界的に注目されています。昨年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)を訪ねたところ、館内のショップで日本人建築家やデザイナーに関する土産や書籍を多数見かけました。その数は、大げさではなく、店内の4分の1とか5分の1もの割合です。それほど日本の建築家やデザイナーが注目されているのです。

 あるいは小説の世界では、中国や韓国で村上春樹さんや東野圭吾さんの作品がトップクラスの人気になっています。昨年、中国・成都の人気書店(方所書店。代官山の蔦屋書店のようなつくり)に入った際には、小説部門の売れ筋ランキングで1~5位までが全て日本の小説の翻訳本で占められている光景を目の当たりにしました。

 食の分野でも日本人の活躍は目覚ましいものがあります。先ほど触れたニューヨークをはじめ、世界各地に日本食レストランが激増していますし、日本流のラーメンもニューヨークの一風堂をはじめ、大ブームです。

 日本食だけではありません。例えば松嶋啓介さんという日本人シェフは、専門学校を卒業して20歳で渡仏。25歳で独立し、ニースにフレンチのレストランを出すと、外国人として最年少でミシュランの星を獲得しました。現在はフランスと東京に店を構え、世界を股にかけて大活躍しています。

 こうしたクリエイティブな分野で活躍している人に共通しているのは、ほとんどの人が、これまで日本人が「成功の王道」と思い込んでいた「いい大学を出て、大企業へ」といった偏差値教育の枠の外側で生きてきているということです。もっと言えば、これからの日本の命運がかかっている産業をリードしていくのは、偏差値教育の外側で育った人たちだと思うのです。