私は経産省の官僚だった時代、中南米向けの経済援助の担当になったことがあります。当時、仕事でペルーに行ったとき、インカ帝国の遺跡を見学する機会がありました。14~15世紀に作られた遺跡は、きれいに切断された巨石同士が、隙間なくピタッと組み合わされて作られています。その見事さに感嘆していると、現地の案内係の人が教えてくれました。「現在のペルーにはこれほど高度な技術はありません」と。この例を引くまでもなく、「かつてあれほど繁栄していたのに・・・」といった文明や国家が歴史の中にはたくさん存在します。

 もしかすると日本も、「かつては世界に冠たる経済大国だったのに・・・」と言われる命運を辿るのかも知れません。あるいは、ここから見事に復活していくのか。その分岐点は、10年周期で考えても、40年周期で考えても、「令和」前半の数年間にやってきそうなのです。

紀元後ずっと世界経済をけん引してきたのは中国とインド

 3つ目として、もっと大きなトレンドに触れておきましょう。実は、紀元後すぐから19世紀前半まで、ほぼ一貫して世界のGDPの半分以上は中国とインドの2カ国で叩きだしていました。ヨーロッパが数字的に存在感を出してくるのは、イギリスがビクトリア朝後半に突入した時代くらいからです。そのころからヨーロッパ各国の経済力が伸長し、さらにその後、アメリカのプレゼンスが高まっていきます。そして20世紀に入ると、中国とインドの割合は合わせて2割にも満たないくらいにまで低下してしまうのです。かつての比率から見ると、嘘みたいな落ち込み方です。

「世界のGDPの歴史」アンガス・マディソン フローニンゲン大学名誉教授作成:『The Economist』より
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 ところが2010年代に入ってから、中国とインドのGDPは合計で全世界の3割程度にまで高まってきました。

 つまり、人類の歴史が始まって以来、世界経済を一貫してリードしてきた中国とインドは、たまたまこの200年くらいの間だけ落ち込んでいただけで、再び世界をリードするポジションに戻りつつある、と捉えることもできるのです。

 いま、アメリカと中国との間の貿易摩擦が過熱していますが、これも「アジア回帰」という大きな流れの中で当然生じるコンフリクトと言えるのかも知れません。そして、中国の台頭は、アメリカと共同歩調をとっている日本にとっても難しい選択を迫られる時代と言えます。