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子会社のデータ改ざんで記者会見する東レ日覺昭廣社長(写真:ロイター/アフロ、2017年11月28日)

(文:内木場重人=フォーサイト編集長)

 東証一部上場企業「東レ」は、売上高2兆5000億円(2019年3月期見込)に迫る、日本を代表する繊維などを中心とした世界的素材メーカーである。前経団連会長の榊原定征氏が社長、会長を務めていたことでも知られる(現在は特別顧問)。

 榊原氏の後を受けて2010年に就任した現社長の日覺昭廣(にっかくあきひろ)氏は、CEO(最高経営責任者)とCOO(最高執行責任者)を兼ねて権力を集中させ、前任の榊原氏を超えて今年6月ですでに丸9年、なおも続投すると見られ、異例の長期政権となっている。

 その同社および日覺社長に対し、今年2月、ある訴訟が東京地方裁判所に提起された。その第1回口頭弁論が、4月15日に行われたばかりである。

 訴状や関係者の証言などからは、同社のコーポレート・ガバナンスがまったく機能していないばかりか、場合によっては「粉飾決算」の疑いすら浮上する問題が浮き彫りになってくる。

「社長公印」と「印鑑証明書」を2回発行

 2月28日に提訴された当該訴訟は、都内に本社を置くクラウドファンディング会社「C社」が原告となり、3億5000万円の「債務存在確認」を東レに求めたものである。

 具体的な経緯はこうだ。

 東京・港区に本社を置く「オリエントコミュニケーション」(以下「オリ社」)なる会社が、東レの「水処理機器」100台を購入する資金として、2017年9月、C社から3億5000万円の融資を受けた。返済は半年後の2018年3月に一括という契約だった。

 オリ社とC社はこれ以前には何の取引もなく、そもそもこの融資案件は東レ側からの依頼だった。

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