都内で記者会見を行い米IDT買収を発表するルネサスの呉文精CEO(2018年9月11日、写真:ロイター/アフロ)

(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)

 ルネサス エレクトロニクスが国内主要6工場で5月以降に半導体生産を最大2カ月間止めるらしい。新聞などのメディアでは、(1)米中ハイテク戦争の影響で中国経済が失速している、(2)その中でも産業機器用半導体の売上高が低迷している、(3)過剰在庫がルネサスの財務を圧迫していること、などに原因があると報道されている。

 しかし、筆者がルネサスの決算報告書などを検証したところ、(1)中国向け半導体の売上高は減少していない、(2)産業機器用半導体の売上高は確かに減少しているがさほど大きな影響はないことが分かった。したがって、これらは生産停止の原因にはなり得ない。

 一方、(3)については、2016年の熊本大震災以降、突発的な事態が起きてもビジネスを維持できるように事業継続計画(Business Continuity Plan 、BCP)を強化した結果、確かにルネサスは過剰在庫を抱えるようになった。ところが、熊本大震災直後、一時的に低下した売上高や営業利益(率)は、2017年には回復している(図1)。

図1 ルネサス エレクトロニクスの四半期ごとの業績
(出所:ルネサス エレクトロニクスのIRデータを基に筆者作成)
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 営業利益率について言えば、2017年第2四半期に4.8%に低下しているが、これは米会計基準に変更した影響であり、これを除けば、過剰在庫を抱えていても常に10%以上を維持している。このことから、過剰在庫の影響で生産停止に追い込まれたとは考え難い。